あぶら)” の例文
人のあぶらを吹き荒す風で手足のひびが痛いと云つて、夕方になると、子供がしくしくぢくね出す。そのすゝぎ湯を沸かすさへ焚物が惜まれた。
夜烏 (新字旧仮名) / 平出修(著)
かくして烏瓜は身うちに日に日にあぶらが乗つて来るにつけて、その青白い肌は、若い女のやうにふつくりした胸の円味を持つやうになつた。
独楽園 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
そして、前にゐた幾人の女中の汗やら髮のあぶらやらが浸みてるけれども、お定には初めての、黒い天鵞絨の襟がかけてあつた。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
シカシ今井の叔父さんはさすがにくたぶれてか、大きな体躯からだを僕のそばに横たえてぐうぐう眠ってしまった。炉の火がそのあぶらぎった顔を赤く照らしている。
鹿狩り (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
彼女等は、テラテラとあぶらぎったたくましい足を、踊る様に動かし、黒髪を肩に波うたせ、真赤な脣を半月形に開いて、二人の前に近寄り、無言のまま、不思議な円陣を作るのでした。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
もつはだへるゝに、なめらかにしろあぶらづきて、なほあたゝかなるものにたり。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
引きの荒いこと山の精と云ひたいくらゐである。こいつは時に蛇でも飛びつくが、そのあぶらのあること、歯の強いこと、キヤンプで火を焚いて、バタか醤油で焼いて食べたら、幽谷の珍味である。
夏と魚 (新字旧仮名) / 佐藤惣之助(著)
流るゝ汗とあぶらとの
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
そして、前にゐた幾人の女中の汗やら髪のあぶらやらが浸みてるけれども、お定には初めての、黒い天鵞絨ビロウドの襟がかけてあつた。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
春が豊熟した頃に咲きほこるものでそんな花の肌理きめの細かい滑らかな花弁に、むつちりとあぶらが乗つた妖艶さは、観る人の心を捕へずにはおかないが
独楽園 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
汗とあぶらの落つる時
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
あれは徳川氏が自分の政策上から、あんな料理法を拵へ上げたので、一体吾々の食べる魚肉といふものは、皮肉ひにくあひだあぶらが乗つて一番うまいものなんです。
ひらたい、あぶらぎつた、赤黒い顔には、深く刻んだ縦皺が、真黒な眉と眉の間に一本。
刑余の叔父 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
あぶらに染みし其袂
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)