胸糞むなくそ)” の例文
書庫と言わるる牡蠣殻のはきだめは、考えても胸糞むなくそが悪くなる。山のようにつんだ紙、インキ、なぐり書きだ。だれかがそんなものを書いたんだ。
彼は、胸糞むなくそがわるくなって、ぺっと、ゆかに唾を吐いた。すると、隣りにいたイギリス人が、こっぴどい言葉で、彼の公徳心こうとくしんのないことを叱りつけた。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
雑草のかげにつくばいながらじっとそのを見上げていると、又してもあの、人を小馬鹿こばかにしたような、賢女振った顔が眼先にちらついて、胸糞むなくそが悪くなって来る。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
……しまったな。あの課長とやら班長とやらの煙草屋でも亦みんなして買えばよかった。お前達ももうこれでこことはおさらばだから、最後の胸糞むなくそおさめに、丁寧な釣銭を
親方コブセ (新字新仮名) / 金史良(著)
人間は、この世の中で、もっと胸糞むなくその悪くなるようなものを、いくらもみ込んでいるんだ。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
「折角だがお任かせ出来ねえね。この向うきずは承知してもはた奴等やつらが承知出来ねえ。可哀相かわいそうと思うんなら早くあの小僧をおろしてやっておくんなさい。つらを見ても胸糞むなくそが悪いから」
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ようやく立ち上がる時には、胃袋が妙にふくれきり、胸糞むなくその悪い気持になり、飽き飽きしながら物足りなくて、もっとつづけたくもあればまたつづけるのがいやでもあるのだった。
庸三は何か胸糞むなくその悪いような感じで、この家の気分もおよそわかるような気がした。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
おれはこんなくさった了見りょうけんの奴等と談判するのは胸糞むなくそるいから
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「これで太田の時の胸糞むなくそが晴れた!」と云った。
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
「一日に何十回と見るたびに胸糞むなくそが悪くなるから、無い方がせいせいするよ」
彼らの話や笑声をきくと、彼は胸糞むなくそが悪くなった。しかしその連中と別れるだけの力がなかった。家に帰って、自分の欲望や悔恨と差向いになるのがこわかった。彼は駄目になりつつあった。
「いえ、どうもせんがね。あの事件以来胸糞むなくそがわるくってね」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)