耶馬渓やばけい)” の例文
旧字:耶馬溪
彼が耶馬渓やばけいを通ったついでに、羅漢寺らかんじへ上って、日暮に一本道を急いで、杉並木の間を下りて来ると、突然一人の女とれ違った。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
岩石だけでは、何んな奇峭な光景があつたにしても、何となく物足りないのは、妙義めうぎ耶馬渓やばけい羅漢寺らかんじを引いて来てもすぐわかるであらう。
あちこちの渓谷 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
耶馬渓やばけい附近の人ならば皆知っていることと思う。あの地方の山で初夏の夕方に、さびしい声で啼く猟師鳥という鳥がある。
名にし負う耶馬渓やばけいの奇観、霧島のあらたかな峰、阿蘇あそのものすごき噴火など、いずれも九州の大きな自然を語ります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
蓋し其足迹の達せざる所唯日向一州あるのみ。九州の名山大川所謂温泉岳、高良山、阿蘇山、霧島山、耶馬渓やばけい、筑後河の類皆彼の詩中に入らざるはなし。
頼襄を論ず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
ほとん柱状節理ちゅうじょうせつりをなし、層々そうそう相重なって断崖に臨んでおり、山上にも多くの巨岩が、天をして聳立しょうりつしている有様ありさまは、耶馬渓やばけい鳶巣とびす山にも比すべきであろう。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
宇治は昔、耶馬渓やばけいを見たことがある。あの耶馬渓を構成する岩に似た岩群のたたずまいであった。
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
両岸には蒼潤さうじゆんの山が迫り、怪石奇巌ならび立つて、はげしい曲折の水が流れては急渓、湛へては深潭しんたん——といつた具合で、田山先生も曾遊そういうの地らしく、耶馬渓やばけいなどおよびもつかない
故郷に帰りゆくこころ (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
この蘇川峡のみをもってすれば、その岩相がんそう奇峭きしょうほう耶馬渓やばけい瀞八丁どろはっちょうしんの天竜峡におよばず、その水流の急なること球磨くま川にしかず、激湍げきたんはまた筑後川の或個処あるかしょにも劣るものがある。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
十月二十八日 中津、遠入えんにゅうたつみ居に至り、耶馬渓やばけいに向ふ。山国屋泊り。
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
大和の月ヶ瀬のごときも月瀬つきせが本当であろう。拙堂せつどうの文章などから誤られたのかも知れぬ。山陽の紀行が一たび出てからは、豊前ぶぜんの山国谷は土地の車夫までが耶馬渓やばけいというようになった。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
観海寺から八まん地獄の方へ行つて見ても好いし、金輪かなわから亀川の方へ行つて見ても好かつた。更に半日を費せば、宇佐八まんにお詣りすることも出来た。耶馬渓やばけいの谷ふかく入つて行くことも出来た。
女の温泉 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)