羽蒲団はねぶとん)” の例文
安楽椅子いす——それもごく堅いものだったが——の上には、小さな羽蒲団はねぶとんが敷かれていて、その羽蒲団は親しげにささやいていた。
なぜって、彼は寝台の上にかかっている薄い羽蒲団はねぶとんの間から怪塔王の目がじっとこっちをにらんでいるのを発見したからです。
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あけた窓、しめた窓、暖炉のすみ、肱掛椅子ひじかけいす普通なみの椅子、床几しょうぎ、腰掛け、羽蒲団はねぶとん、綿蒲団、藁蒲団わらぶとん、何にでもきまった金をかけておくことだ。
信一郎は、そう云う風に考え直しながら、青色の羽蒲団はねぶとんの敷いてある籐椅子とういすに、腰をおろしていた。窓からは、宏大こうだいな庭園が、七月の太陽に輝いているのが見えた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
物価は巴里パリイに比べて概して二三割方やすい様である。自分達は巴里パリイのボン・マルセに似た大きな店で羽蒲団はねぶとんを二つ買つた。羽と蒲団とを別別べつべつに買つて詰めさせるのである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
玉子を取る外に肉用鶏を飼えば何時いつでもつぶして食用になりますし、あるいは去勢術を習ってケーポンも出来ますし、羽を溜めて羽蒲団はねぶとんにもなりますし、それはそれは色々の利益がございます。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
軽い羽蒲団はねぶとんに乗って、静かに白鳥はぎながら、その方に近づく……。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
白い暖かな裸の体が草色の羽蒲団はねぶとんおおわれていた。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
しかしハスレルは、安楽椅子いすにうずくまり、頭をり返らして羽蒲団はねぶとんにもたせかけ、眼を半ば閉じて、彼を話すままにしておいて、聞いてもいないようだった。
京子は、そう答えると再び倭文子の寝台に近づいて、上にのっている羽蒲団はねぶとんをめくってみた。彼女は倭文子の遺書かきおきのようなものがありはしないかと思ったからである。
第二の接吻 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ルイ十五世式の非常にりっぱな机は、「新式」の肱掛椅子ひじかけいす数個と多彩の羽蒲団はねぶとんが山のように積んである東方式の安楽椅子とに、取り囲まれていた。扉には鏡が飾りつけてあった。
丁度此の時、ドア彼方あなたの寝台の上に、夢を破られた女は、親子の間の浅ましい葛藤かっとうを、聞くともなく耳にすると、その美しい顔に、すごい微笑を浮べると、雪のような羽蒲団はねぶとんを又再び深々と、かぶった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)