繊巧せんこう)” の例文
もっと堅い感じのものが多いのですが、それが錦絵になりますと、とても暢び暢びとした、繊巧せんこうなものになっております。
蘆と水楊みずやなぎの多い綾瀬あやせあたりの風景をよろこぶ自分に対して更に新しく繊巧せんこうなる芸術的感受性を洗練せしめた。
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
徳川氏の末に至りては繊巧せんこうなるかたのみやや文学的とはなれり。これらの歌より進む者はもとより俳句に入り得べく、しかも詩人の俳句に入るよりも入りやすきこと論をたず。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
一説によれば chicane の略で裁判沙汰をもつれさせる「繊巧せんこう詭計きけい」を心得ているというような意味がもとになっている。他説によれば chic の原形は schick である。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
辮髪べんぱつの先に長いふさのついた絹糸を編み込んで、歩くたびにその総の先が繻子しゅすの靴の真白なかかとに触れて動くようにしているのを見て、いかにも優美繊巧せんこうなる風俗だと思った。
十九の秋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
故にその歌真摯しんしにして古雅ごうも後世繊巧せんこう嫵媚ぶびの弊に染まず。今数首を抄して一斑を示さん。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
一方には裾を短くしてほとんどひざまで出し、他方には肉色の靴下をはいて錯覚の効果を予期しているのに比して、「ちよいと手がるく褄をとり」というのは、はるかに媚態としての繊巧せんこうを示している。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
長崎渡りの七宝焼しっぽうやき水入みずいれ焼付やきつけの絵模様に遠洋未知の国の不思議を思わせ、赤銅色絵しゃくどういろえ文鎮ぶんちん象嵌細工ぞうがんざいく繊巧せんこうを誇れば、かたわらなる茄子形なすびがた硯石すずりいし紫檀したんふたおもてに刻んだ主人が自作の狂歌
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)