縦令たとえ)” の例文
旧字:縱令
良人おっと自分じぶんまえ打死うちじにしたではないか……にくいのはあの北條ほうじょう……縦令たとえ何事なにごとがあろうとも、今更いまさらおめおめと親許おやもとなどに……。』
予に金を貸した一人の如きは、君がそれほど勉強して失敗したら、縦令たとえ君に損を掛けられても恨はないとまで云うた。
家庭小言 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
明日の授受が済むまでは、縦令たとえ永年見慣れて来た早田でも、事業のうえ、競争者の手先と思わなければならぬという意識が、父の胸にはわだかまっているのだ。
親子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ここからは見えない泉水のほとりで、縦令たとえ馬鹿ばかではあるにしろ年齢としだけは若い、身体だけは堂々と立派な勝彦が、瑠璃子と相並んで、打ち興じている有様が、勝平の眼に
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
縦令たとえ偶然にして其寿命のみを保ち得ても、健康と精力とが之に伴わないで、永く窮困・憂苦の境に陥り、自ら楽しまず、世をも益するなく、碌々昏々として日を送る程ならば
死生 (新字新仮名) / 幸徳秋水(著)
しかしながら真の求道者は、われ等の教によりて手がかりを獲、真の信仰者はわれ等の教によりて幸福と、進歩との鍵を掴み、そして縦令たとえ千歳の後に至るとも、この教の覆ることは絶対にないと信ずる。
相手が縦令たとえどんなに取るに足らなそうな男でも
アンドロギュノスの裔 (新字新仮名) / 渡辺温(著)
それでも予定よてい場所ばしょころまでには、すこしはわたくしはらすはってまいりました。『縦令たとえ何事なにごとありともなみだすまい。』——わたくしかたくそう決心けっしんしました。
また縦令たとえ、如何なる信仰を持って居たにしろ、咄嗟に生命を奪われた、死際の刹那を苦悶と忿怒との思いで魂をみだしたものが極楽なり天国なりへ行かれようとは、思われません。
ある抗議書 (新字新仮名) / 菊池寛(著)