)” の例文
一杯蜘蛛くも、山のやうに積つた塵埃ごみ、ぷんと鼻をつて来る「時」の臭ひ、なつかしく思つて明けては見たが、かれはすぐその扉を閉めて了つた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
こは大なる古刹ふるでらにして、今は住む人もなきにや、ゆかは落ち柱斜めに、破れたる壁は蔓蘿つたかずらに縫はれ、朽ちたる軒は蜘蛛くもに張られて、物凄ものすごきまでに荒れたるが。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
彼が営々として名誉、財産地位等を積み重ねてこれに依頼よりたのむは、あたかも蜘蛛がそのを金城鉄壁として頼めるの類であるというのである。これ第二の引例である。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
午前あさの三時から始めた煤払いは、夜の明けないうちに内所をしまい、客の帰るころから娼妓じょろうの部屋部屋をはたき始めて、午前ひるまえの十一時には名代部屋を合わせて百幾個いくつへやに蜘蛛の一線ひとすじのこさず
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
づぶ濡の木立こだちにかけた蜘蛛の
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
蜘蛛くも塵埃ほこり乞食こじきの頭のやうにボサ/\と延びた枝や——その中でも、金目な大きな伽羅きやらの丸い樹はいつか持つて行つたと見えて、掘つたあとが大きくそこに残つてゐた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)