素町人すちょうにん)” の例文
しかも一個の素町人すちょうにんらしい。しばらくは嘲声ちょうせいがやまなかった。しかしそれが止むのを待って、やっと行司は真顔まがおで訊いたものである。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「僕は実業家は学校時代から大嫌だ。金さえ取れれば何でもする、昔で云えば素町人すちょうにんだからな」と実業家を前にひかえて太平楽を並べる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
万一の事でもあろうものなら、手前なんぞは先生とはちがって虫けら同然の素町人すちょうにんゆえ、事によったら遠島えんとうかまず軽いところで欠所けっしょまぬかれまい。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
大高源吾ともあろう武士さむらい素町人すちょうにんの馬子に酒代さかてと詫証文を取られたのですから、骨身に沁みて口惜しかったでしょうよ。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
昨今此の辺に大分だいぶ押込が這入ったり追剥が出たりして、土地ところの者が一方ならぬ迷惑致すを、貴殿等の御所業とは知らんで有ったが実に驚いた大悪無道だいあくぶどうわたくし素町人すちょうにんの身の上
さむらいは両刀を腰に横たえて、天下の良民たる町人・百姓等を低く眼下に見下ろし、素町人すちょうにん土百姓どびゃくしょうと軽蔑して、場合によっては斬捨御免きりすてごめんという程の権力をも有したものであった。
農商も昔日せきじつ素町人すちょうにん土百姓どびゃくしょうに非ずして、藩地の士族を恐れざるのみならず、時としては旧領主を相手取りて出訴に及び、事と品によりては旧殿様の家を身代限しんだいかぎりにするの奇談も珍しからず。
徳育如何 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
式台に手をついていた用人の河豚内ふぐないと権太夫は、見も知らない素町人すちょうにんがずかずかと上がって来たのに眉をひそめて
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「矢っ張り士族平民がやかましいんだそうですが、考えて見ると此方は私のお母さんのお父さんが御家人ごけにんだったから、満更素町人すちょうにんでもないということになったのさ」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
わたくしは此の山は動かねえ、わたくしも千島禮三で、仮令たとい相手が強いと云っても多寡たかの知れた素町人すちょうにん、此処へ来るというが幸い、どうせ細ったわしが首だ、山三郎と刺違えて死ぬ分の事
「私は何うしても気が済みません。秀子を素町人すちょうにんへ片付けては先祖代々へ申訳が立ちません」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
又金が返せぬから斬って仕舞うとは、余り理不尽じゃアありませんか、いくら旗下はたもとでも素町人すちょうにんでも、理に二つは有りません、さア切るなら斬って見ろ、旗下も犬のくそもあるものか
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「おのれ、燕作ごとき素町人すちょうにんにおくれをとって一とうの人々に顔向けがなろうか」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いや、素町人すちょうにんの子がいやしくも若様のお帽子を足げにするなぞということが!」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「むむ、見受けるところ、貴様はただの素町人すちょうにんではないな。武士だな」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
士「さアけ/\素町人すちょうにん除け」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)