簇々そうそう)” の例文
此等これらの湿地には晩春雪解の跡に無数の水芭蕉の花が葉に先んじて、簇々そうそうと白苞を抽き出し、殆ど地を掩うの奇観を呈する。
昼間煙の簇々そうそうと立っていたその方角の空を、夜に入って、今度は火焔が赤々と染める。とうとう不安のうちに一夜をその家で過ごすことになった。
それでも時たまその松が、鹿しかでも水を飲みに来るせいか、まばらいている所には不気味なほど赤い大茸おおたけが、薄暗い中に簇々そうそうむらがっている朽木も見えた。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
元来が強い草であるから、蒔きさえすれば生える、生えれば伸びる、伸びれば咲く。花壇などには及ばない、垣根の隅でも裏手の空地でも簇々そうそうとして発生する。
我家の園芸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
真綿で頬かむりしたようなぜんまいが、洋髪に結んだような蕨が、簇々そうそうと生い立っていた。それを根もとからぽっきりと折って籠の中に入れた時の喜びッたらなかった。
下界を固く封鎖してしまった、この下に都府あり、簇々そうそうたる人家あり、男女あり、社会あり、好悪あり、号泣放笑ありといっても、これは黎明しののめが来るまでは存在しない世界である
奥常念岳の絶巓に立つ記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
けれども雲の軍勢が鬱然うつぜんと勃起し、時に迅雷じんらい轟々ごうごうとして山岳を震動し、電光閃々せんせんとして凄まじい光を放ち、霰丸さんがん簇々そうそうとして矢を射るごとく降って参りますと修験者は必死となり
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
すると彼女は眼を挙げて、かならず外の松林を眺めた。松は初冬の空の下に、簇々そうそうと蒼黒く茂つてゐた。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
花壇などには及ばない、垣根の隅でも裏手の空地でも簇々そうそうとして発生する。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
門の左右をうずめるやぶのところどころから、簇々そうそうとつるをのばしたその花が、今では古びた門の柱にまといついて、ずり落ちそうになったかわらの上や、蜘蛛くもの巣をかけたたるきの間へ
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その中に、この植物は、茎の先に、簇々そうそうとして、花をつけた。漏斗じやうごのやうな形をした、うす紫の花である。悪魔には、この花のさいたのが、骨を折つただけに、大へん嬉しいらしい。
煙草と悪魔 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
が、ひさしの外の空には、簇々そうそうと緑をいた松が、静かに涼しさを守つてゐる。
好色 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)