筆墨ひつぼく)” の例文
しかし、ひるがえってみると、この山牢の中に、悠々と、そういう記録などを書き残しておく、筆墨ひつぼくなどはない筈である。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてその後つねにこの椅子テーブルで彼は勉強していたのである。そのテーブルの上には教科書その他の書籍を丁寧ていねいに重ね、筆墨ひつぼくの類までけっして乱雑に置いてはない。
非凡なる凡人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
女仙外史の人の愛読耽翫たんがん所以ゆえんのもの、決して尠少せんしょうにあらずして、而して又実に一ぺん淋漓りんりたる筆墨ひつぼく巍峨ぎがたる結構を得る所以のもの、決して偶然にあらざるを見る。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
筆墨ひつぼくはなくても、未来の地下戦車長、岡部一郎と書くことをお休みにすることはできない。
未来の地下戦車長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
こういうとただ華麗かれいな画のようですが、布置ふちも雄大を尽していれば、筆墨ひつぼく渾厚こんこうきわめている、——いわば爛然らんぜんとした色彩のうちに、空霊澹蕩くうれいたんとうの古趣がおのずかみなぎっているような画なのです。
秋山図 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
すでに、従兵の一人は、胡正の前に、用意の筆墨ひつぼくと料紙を突きつけている。いや一同がぎょッとしたのは、それではない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
會毎くわいごと三人さんにん相談さうだんしてかならつき一度いちど贈品ぞうひん大島小學校おほしませうがくかうおくる、それがかならずしも立派りつぱものばかりではない、筆墨ひつぼくるゐ書籍しよせき圖畫づぐわるゐなどで、オルガン一臺いちだい寄送きそうしたのが一番いちばん金目かねめものであつた。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)