空罎あきびん)” の例文
ビールの空罎あきびんに入れられた麦湯が古い井字形せいじがたの井戸に細い綱でつるして冷やされてあった。井戸側には大きな葉の草がゴチャゴチャえている。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
すると勝手の方でばあさんの声がした。それから牛乳配達が空罎あきびんを鳴らして急ぎ足に出て行った。うちのうちが静かなので、鋭どい代助の聴神経には善くこたえた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おまけにだれが投げるのか、サイダアの空罎あきびんや石ころやかじりかけの胡瓜きゅうりさえ降ってくるのです。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
壁にはひげがはえていて、玻璃器はりきの代わりには空罎あきびんが並んでおり、窓掛けの代わりには蜘蛛の巣が張っているような、恐ろしい古いきたないじめじめしたあなぐらのような所で
帽子も冠らずにいるその娘は画室のなかの様子を見て直にも立去ろうとしたが、それを岡が呼留めた。岡は部屋の片隅から空罎あきびんを探して来て、ビイルを買うことをその娘に頼んだ。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お袋は土間へ降りてビールや正宗の空罎あきびんを、物置へしまい込んでいるお庄の側へ来て
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
という訳は、私が耳を傾けている間にさえ、その中の一人が、酔っ払った叫び声をあげながら、船尾の窓をけて何かをほうり出したが、それを私は空罎あきびんだろうと判断したからである。
自分で上等も無いもんですが、先日上京した時、銀座の亀屋かめやへ行って最上のをれろと内証ないしょうで三本かって来て此処ここかくして置いたのです、一本は最早もうたいらげて空罎あきびん滑川なめりがわに投げ込みました。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「毛唐の飲みからしの空罎あきびんなんぞを拾って、何になさる」
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
りっぱな蜘蛛の巣が一つ、まっ黒に大きくひろげられ蠅の死体で飾られて、窓ガラスの上に車輪のようにかかっていた。室は狭くて天井も低く、一隅には空罎あきびんが積まれていた。
一面に真白に塗って、鉱金めつきで玉縁にしてある隔壁には、きたない手の痕がついていた。何ダースというたくさんの空罎あきびんが、船の揺れ動くのにつれて、隅で一緒にがちゃがちゃ音を立てていた。
あの謀叛以来一度も洗ったことのない甲板の板には、たくさんの足跡がついていた。そして、頸のところを叩き割られた空罎あきびんが一本、排水孔の中を生きているもののようにあちこちと転がっていた。
バスクは空罎あきびんを取り除け、ニコレットは蜘蛛くもの巣を払った。