病褥びょうじょく)” の例文
「……おまえにはまだきもにこたえまい。しかし、わしは今、心魂に徹して、半生の苦杯をなめ味わっているのだ……この病褥びょうじょくの中で」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かつて病褥びょうじょくにありてダンヌンチオの著作を読むや紙面に横溢する作家の意気甚だ豪壮なるを感じ、もし余にして彼の如き名篇を出さんとせば
矢立のちび筆 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
その頃母は血の道で久しくわずらって居られ、黒塗的な奥の一間がいつも母の病褥びょうじょくとなって居た。その次の十畳の間の南隅みなみすみに、二畳の小座敷がある。
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
長い病褥びょうじょく中行きとどいた看護と金目を惜しまない手当を受けながら、数年前に死んで行った老母が「そんなことをしてよく殺されもしないものだ」
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ウェーバーの「魔弾の射手フライシュッツ」をて涙を流し、その中の美しい歌をピアノで弾き、病褥びょうじょくの継父を驚かせたというが、その後ピアノの教師について学んだ時は技巧的な修業を嫌って
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
ために平素往々うれうる所の、扁桃腺炎へんとうせんえんを誘起し、体温上昇し咽喉いんこうふさがりて、湯水ゆみずも通ずること能わず、病褥びょうじょく呻吟しんぎんすること旬余日、僅かに手療治てりょうじ位にて幸に平癒へいゆせんとしつつありしが
官兵衛は久しい間の謎をいま解きにかかったように、病褥びょうじょくの中にある体の痛みも忘れていった。するとその時襖を開けて、栗山善助が
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたくしはやっと病褥びょうじょくを出たが、医者から転地療養の勧告を受け、学年試験もそのまま打捨て、父につれられて小田原の町はずれにあった足柄あしがら病院へ行く事になった。
十六、七のころ (新字新仮名) / 永井荷風(著)
病褥びょうじょくは片づけても薬の香や寝臭ねぐさいものが漂っているのをおそれて、焚香ふんこうのかわりに取りあえず、この一花をもってそれをきよめたものであろうと。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
毅堂はこの年某月背部に悪性の腫物を発して病褥びょうじょくに就いたので黒田家の扶持を辞した。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
孔明は恐懼きょうくして病褥びょうじょくを出、清衣せいいして、玄徳を迎えた。彼の病室へ入ってくるなり玄徳はあわてて云った。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しきりとせきの声がするのは、病褥びょうじょくにある半兵衛が、やむなき客のため、身を起しているからであろう。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
恐らく、いつぞやの晩、やかた病褥びょうじょくにはいってから、城太郎に詳しい話を聞き
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
曹操は病褥びょうじょくのうちであざ笑って
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、病褥びょうじょくから仰せ出された。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)