男妾おとこめかけ)” の例文
私が階下に花田君子の靴音を聞いたころ、友人の横田は紐育ニューヨークの女優メイ・マアガレッタの男妾おとこめかけとして外科的な名誉と人気をかち得ていた。
恋の一杯売 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
と、ぽんと一本参りたまえば、待構えしていにて平然と、「ありゃあっし男妾おとこめかけさ、意気地いくじの無い野郎さね。」一同聞いて唖然あぜんたり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「贅沢じゃないわよ。上流の人はみんなそうよ。おまけに男妾おとこめかけだの、若いつばめだのがワンサ取り巻いているんですもの……」
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
万葉集を行李こうりの中から取り出して、ここに持ち来すべく出て行ったお雪は、廊下でバッタリと男妾おとこめかけの浅吉に出逢いました。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
何でも夫人の前身は神戸あたりの洋妾らしゃめんだと云う事、一時は三遊亭円暁さんゆうていえんぎょう男妾おとこめかけにしていたと云う事、その頃は夫人の全盛時代で金の指環ばかり六つもめていたと云う事
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「どうするって、訳ないじゃありませんか。ささだ男もささべ男も、男妾おとこめかけにするばかりですわ」
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「どうせ、痴よ、じぶん所天おっと男妾おとこめかけにせられて黙っているのですもの」
一握の髪の毛 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その時、その温泉に冬越しをしようという人々——それはあのいやなおばさんと、その男妾おとこめかけの浅吉との横死おうしを別としては、前巻以来に増しも減りもしない。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
何と見えます——俳優ともつかず、遊芸の師匠ともつかず、早い話が、山姥やまんば男妾おとこめかけの神ぬしの化けたのだ。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
高山屈指の穀屋の後家さんの男妾おとこめかけを業としていた浅吉という色男の弟だと言われた同苗どうみょう政吉——が、この怪物のために時に取ってのお先供を仰せつかりました。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「ありゃ、飛騨の高山の名代なだい穀屋こくやの後家さんですよ、男妾おとこめかけを連れて来ているんですよ、男妾をね」
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
といって男妾おとこめかけの浅吉は、つばを呑み込んで、何かいおうとして、いうのをはばかりましたが、思い切って
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
飛騨の高山の者だというあの油ぎった後家ごけさんと、その男妾おとこめかけの浅吉とやらが変死してから……留守番や、山の案内がこわがっている、この上、お雪ちゃんでも病みつこうものなら
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それはイヤなおばさんの男妾おとこめかけとして知られた浅吉さんの生れかわりではないか——誰も驚かされるほどよく似た若い番頭風の男、萌黄色もえぎいろの箱風呂敷を手に提げて、もう縁を上って
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「いくつも出るそうですが、そのなかで、高山の淫乱後家いんらんごけと、男妾おとこめかけの浅公……」
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「かわいそうなのは、浅吉という男妾おとこめかけと、それからですね、もう一人……」
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いやなおばさんと、男妾おとこめかけの浅吉とがいなくなってから後、この三階は、わたしたちで占領しているようなもの。上ったならば、当然、わたしたちを訪れる人であろうのに……立消えになってしまった。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)