瓢箪池ひょうたんいけ)” の例文
これは相撲の番附、こちらが名人かがみ、向うが凌雲閣りょううんかく、あれが観音様、瓢箪池ひょうたんいけだって。喜蔵がいつか浅草へ供をして来た時のようだ。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
里数にすれば三里近くもあるところを、いつの間にか瓢箪池ひょうたんいけの、あのペンキのげたベンチの一つへたどりついていたのである。
地図にない街 (新字新仮名) / 橋本五郎(著)
それも近頃はだんだんすくなくなってしまったが、浅草公園の瓢箪池ひょうたんいけの附近に行くと最近まであれを専門に売って居る露店があったものだ。
浅草公園六区の瓢箪池ひょうたんいけを、現在のように改修のため、明治二十年ごろ池底を掘り下げて行くと、意外にも赤ニシや法螺ほらの貝が大小数十個現われた。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
先住の手植らしい縁日物の植木や、素人の手でつくられたに違いない瓢箪池ひょうたんいけは、古びた煉瓦の下敷になってしまった。
遺産 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
あの瓢箪池ひょうたんいけから裏田圃うらたんぼまで軒をならべている安芝居や見世物などは、今のお蝶には、あまり魅力のないものでした。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私はその頃、日曜日には大抵浅草公園へ行って映画を見て、帰りには瓢箪池ひょうたんいけの際に出ていた屋台の蜂蜜屋で蜂蜜を呑んだ。一杯五銭でなかなかおいしかった。
遁走 (新字新仮名) / 小山清(著)
おらあな、一本の足を千住のどぶの中へ、一本の足を公園の瓢箪池ひょうたんいけの中へ、一本の手を——呉服店の陳列場へ、一本の手をある家へ小包にして送ってやったあ。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
次は瓢箪池ひょうたんいけを埋めた後の空地から花屋敷の囲い外で、ここには男娼の姿も見られる。方角をかえて雷門かみなりもんの辺では神谷バーの曲角まがりかど。広い道路を越して南千住行の電車停留場のあたり
吾妻橋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
浅草公園の瓢箪池ひょうたんいけほとりを歩きながら藤次郎は独り言を云った。然し之は胸のうちのむしゃくしゃを思わず口に出しただけで、別段やっつけることをはっきり考えたわけではなかった。
夢の殺人 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
伸子がよく子供の時分、大きなリボンをつけて遊びに来た瓢箪池ひょうたんいけのわきに出た。葉の青々した篠懸すずかけの下に池に向って空いたベンチが一つあった。いい加減歩いた彼女らはそこにかけた。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
それから父は瓢箪池ひょうたんいけの傍で万国一覧という覗眼鏡のぞきめがねこしらえて見世物を開きました。
寺内の奇人団 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
私の父は以前、浅草公園の瓢箪池ひょうたんいけのほとりに、おでんの屋台を出していました。
ヴィヨンの妻 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「ははあ」いつか瓢箪池ひょうたんいけの「おまさ」に行った時のことだなとわかった。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
中ほどがくびれて瓢形ひょうけいをなしているから、瓢箪池ひょうたんいけといおう。
穂高岳槍ヶ岳縦走記 (新字新仮名) / 鵜殿正雄(著)
上に藤棚ふじだなのある、瓢箪池ひょうたんいけの橋の上に、私たちはたたずんでいた。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)