率直そっちょく)” の例文
そんな羞恥しゅうちと高慢さとの入り混った視線とは異って、私の上に置かれているその少女の率直そっちょくな、好奇心こうきしんでいっぱいなような視線は
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
その生物とは何であるか、そのことあまりに深刻にして諸氏の胸を傷つけるであろうがこれ真理であるから避け得ない、率直そっちょくに述べようと思う。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そうした表面にあらわれる言動の点では、かれはむしろ率直そっちょくにすぎ、どこやらにおかしみさえ感じられるほどであった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
それから、思いがけなく、まるで違ったものからでもおまえを連想させられる。ぼんのくぼのちぢりっ毛や、のぶと率直そっちょく声音こわね、——これも打撃だ。
巴里のむす子へ (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
花は、率直そっちょくにいえば生殖器せいしょっきである。有名な蘭学者らんがくしゃ宇田川榕庵うだがわようあん先生は、彼のちょ『植学啓源けいげん』に、「花は動物の陰処いんしょごとし、生産蕃息はんそくとりて始まる所なり」
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
キッティはわたしの様子が変わって快活になったのを喜んで、率直そっちょくな態度で明らさまに私に讃辞を浴びせかけた。
是は恐らく一年ばかりの特例ではなかったろう。率直そっちょくな言葉でいうならば、沖縄では是より以外に何一つ、あちらに無いものは出せなかったのであろう。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
私のようなわば一介の貧書生に、河内さんのお家の事情を全部、率直そっちょくに打ち明けて下され、このような状態であるから、とても君の希望にうことのできないのが明白であるのに
善蔵を思う (新字新仮名) / 太宰治(著)
このひとこそ自分の一生をけた唯一ゆいいつ無二の女性だと云う確信がついたら、早速さっそく、自分の心情を率直そっちょくに打明けなけりゃ問題にならないよ。遠慮なんかしてたらいつまでったってらちがあかない。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
で、どうか、君の真意を率直そっちょくにきかせてくれ。返事は、イエスかノーかでたくさんだ。くれぐれも言っておくが、心にもない返事は、この場合ぜひやらないでくれ。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
しかし、それも眼がだんだん悪くなつて出来なくなり、彼自身も『胆大小心録』で率直そっちょくに述べてゐる通り、「麦くたり、やき米の湯のんだりして、をかしからぬ命を生きる——」
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
(大学生諸君、意志を鞏固きょうこにもちたまえ。いいかな。)たべ物の中から、一寸ちょっと細長い白いもので、さきにみじかい毛を植えた、ごく率直そっちょくに云うならば、ラクダ印の歯磨楊子はみがきようじ、それを見たのだ。
フランドン農学校の豚 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
しかし率直そっちょくに言うと、ぼくは実は、会って話をすると、君が君の本心をいつわって、ぼくの君にたいする判断を、頭から否定してかかるのではないか、と心配したのだ。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)