猪突ちょとつ)” の例文
すぐに裏口伝いをほりに沿って城中へ参向すると、ようやくお目ざめになったばかりの伊豆守に向かって、猪突ちょとつに不思議なことを申し入れました。
私はその境地にあって必ず何等かの不満を感ずる。そして一歩を誤れば、その不満をいやさんが為めに、益〻ますます本能の分裂に向って猪突ちょとつする。それは危い。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
少い経験にしろ、数の場合にしろ、旅籠はたごでも料理屋でも、給仕についたものから、こんな素朴な、実直な、しかも要するに猪突ちょとつな質問を受けた事はかつてない。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
高徳は前へ猪突ちょとつしていたのである。だから不意をくった兵のかたまりは二つに割れ、風を持った蓑と剣影が走り抜けたあとには、はや二、三人がぶっ仆れていた。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただクリストフは、左右を顧みず猪突ちょとつしていた。パリー人の「温情」をことにいらだっていた。
実行家の第一資格たる向う見ずに猪突ちょとつする大胆を欠いていた。勢い躍り出すツモリでいても出遅れてしまう。機会は何度なんたび来ても出足が遅いのでイツモ機会を取逃がしてしまう。
二葉亭追録 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
幸子はこの老婦人にそんな猪突ちょとつ的な一面があったことを今迄知らなかったのであるが、なるほど、そう云えば、年を取って尚更なおさらそうなったのかどうか、顔つきにも何処かけんがあって
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
試験に試験を重ねたタンクが、とつぜん戦線に驚異的に出現して、あの、前世紀動物のような、怪物的な鋼鉄製の巨体をゆるがせて猪突ちょとつした時、案に相違して、ドイツ方はあまりおどろかなかった。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
猪突ちょとつ六分、計画四分という、彼の信条はどこへ行ってしまったのか。
人外魔境:10 地軸二万哩 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
後年彼の思想はドイツの民族主義に性根しょうねえ、高度の理想主義に発展したが、若かりし頃のワグナーは、当時の改革思想の影響を受けて、新しきものへと猪突ちょとつしたのはまたやむをないことである。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
そのことがすでに不思議なところへ、右門はいよいよ不思議なことをおくめんもなくお奉行へ猪突ちょとつに申し入れました。
関羽は、八十二斤の青龍刀をひっさげ、あえて、雑兵には眼もくれず、中軍へ猪突ちょとつして
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いたって皮肉に言い去ると、あごをなでなでへやの内へ取って返したようでしたが、そこへ伝六が目をぱちくりさせながらやって来たのを見ると、猪突ちょとつに命令を発しました。
しかしこれも秦明しんめいと闘ッて斬られ、第三、第四、と猪突ちょとつして出た者までことごとく打ち果たされてゆくのを見ると、高廉はその青粘土あおねんどのようなおもてにたちまち吹墨ふきずみのような凄気せいさを呼んで
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さながらその犯行が伊豆守の帰藩を待つようにして突発したというその二つの点に、ふと大きな疑問がわいてまいりましたものでしたから、右門は猪突ちょとつにことばをかけました。
と——今の爆音に気がついて、旋風のごとく、そこへ猪突ちょとつしてきた者がある。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宰相伊豆守は、かたわらに居流れていた近侍の面々を顧みると、猪突ちょとつに命じました。
と、明智方の武士へ向って、大刀を抜き、眼をいからして、猪突ちょとつして来た。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
六十の小人数ならば裸でも猪突ちょとつして行ったかもしれないが、六百の軍なるために、武装をととのえ、隊伍を成し、なまじ軍隊としてうごき出したために、時遅れたのはぜひもないことだった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いうやいな、馬をおどらせて、敵兵の戦列へ猪突ちょとつして行ったのだった。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と誓い、畢生ひっせいの勇猛をふるって、無二無三猪突ちょとつしてきた矢先である。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「すこし変ですぞ」と、止めたが、趙雲は、猪突ちょとつしてしまった。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
秦明の一隊が、猪突ちょとつをしめすと。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、猪突ちょとつして行った。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)