狂瀾きょうらん)” の例文
長島城中一場の惨劇は、忽ち、ここの家中の足もとから、その夜からでも、四面の国境がみな戦乱と化すような、狂瀾きょうらんの心理を捲き起した。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ようやく笑いがやみそうになったら、五つになる女の子が「御かあ様、猫も随分ね」といったので狂瀾きょうらん既倒きとうに何とかするという勢でまた大変笑われた。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
麑島謀反かごしまむほんの急報は巻き来たる狂瀾きょうらんのごとく九州の極より極に打てり、物騒なる風説、一たびは熊本城落ちんとするのうわさとなり、二たびは到るところの不平士族賊軍に呼応して
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
流石の名探偵も、渦巻く怒濤、山なす狂瀾きょうらんに対しては、みじめな一箇の生物に過ぎなかった。いや、彼の身辺に同じ様に波にもまれている、一片の木切れとすら選ぶ所はなかった。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
霧が雨になり、雨が霧になり、雨と霧が交互こうごにたわむれて半天にかけまわれば、その下におどる白泡しらあわ狂瀾きょうらんがしだいしだいに青みにかえって、船は白と青とのあいだを一直線にすすむ。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
木部は葉子と別れてから、狂瀾きょうらんのような生活に身を任せた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
暴風雨あらしは、闇と共に去って、一天雲もなく晴れていた。ただ見る伊豆の海から房総の沖へかけて、まだ夜来の荒天をしのばせる狂瀾きょうらんのしぶきと海鳴りのあるだけだった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
代助が真鍮を以て甘んずる様になったのは、不意に大きな狂瀾きょうらんき込まれて、驚ろきの余り、心機一転の結果を来たしたという様な、小説じみた歴史をっているためではない。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
狂瀾きょうらんのごとき公憤こうふんの波はおさまって一同はぞろぞろ家へ帰った。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
「申さば鳴門の狂瀾きょうらんへ吾から運命を投げこんで、大望なるかならざるか、いちかばちかの瀬戸ぎわへまいったのじゃ。すべては天意——このつづらに任せるのほかはない」
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いちめん、狂瀾きょうらんのような声がわき起った。見物はまったくもう酔ッているのだ。任原の巨体はいきなり飛込んできた燕青の体を脇の下に抱きこんだまま身ゆるぎもしていない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
重厚な敵の前列が、徐々と——しかし狂瀾きょうらんそうを示しながら——いわゆる武者押しというジリジリ詰めに追って来ると、いずれからともなく一方の陣列からわあっと声いっぱい叫ぶ。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ということを知っただけでも、彼女の胸はさっきから狂瀾きょうらんに似て鳴りさわいでいた。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この狂瀾きょうらんに尊氏もじっとしていられず、自身、近江へ駈け向っていたものだった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの暴風雨あらしの夜の狂瀾きょうらんに、死んだものとのみ信じた後はさすがに煩悩ぼんのうの霧が散ってせいせいとした気もちであったので、今、お綱の姿を見ても、得ようとする念はなかった、殺意のほうが強かった。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あなたでは民部みんぶの苦戦、ここでは伊那丸と咲耶子が、腹背ふくはいの敵にはさみ討ちとされている。二ヵ所の狂瀾きょうらんはすさまじい旋風せんぷうのごとく、たばしる血汐ちしお丁々ちょうちょうときらめくやいば、目もけられない修羅しゅらの血戦。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
天下の相貌はまだまだ決して一旦いったん狂瀾きょうらんからもとの平静に帰ったわけではないのみか、信長き、光秀去って、ふたたび全土三分の大分裂を来すか、或いは、室町中期のもっとも悪い一時代のような
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まさに、狂瀾きょうらん天をうとうとしている。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
狂瀾きょうらん
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
狂瀾きょうらん
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)