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父君
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おとつさん
『
日出雄や、お
前は
今此災難に
遭つても、ネープルスで
袂別の
時に
父君の
仰つしやつたお
言葉を
忘れはしますまいねえ。』と
言へば、
日出雄少年は
此時凛乎たる
面を
擧げ
『あら、
父君は
單獨で
何處へいらつしやつたの、もうお
皈りにはならないのですか。』と
母君の
纎手に
依りすがると
春枝夫人は
凛々しとはいひ、
女心のそゞろに
哀を
催して、
愁然と
見送る
良人の
行方
『
父君はもう
家へお
皈りになつたでせうか。』