)” の例文
時がたちさえすれば、ひびの入ったお今の心が、それなりに綺麗にじ合わされたりされたりして行くとしか思えなかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
例の場所にて釣りたらば、水は浪立ずして、したる如く、船も竿も静にて、毛ほどのあたりも能く見え、殊に愛日を背負ひて釣る心地は、さぞ好かるべし。
元日の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
広い波の面はすやうに平かで、只私達のゐる巌角の下だけに烈しい争闘が行はれ、恐ろしい叫喚の響きがしてゐるばかり、それも大きな眺めに圧せられて
伊良湖の旅 (新字旧仮名) / 吉江喬松(著)
髪は柔かく、小さなる八字ひげを生やしいる。黒のフロックコオトに黒のネクタイ。服は着たるばかりなりと覚しく、手にてしわすようにで、ほこりを払うようにたたきつつ、寝間の戸を開けて登場。
お庄は目につかぬほどの石炭のおりのついた、白い洗濯物に霧を吐きかけては、しわしはじめた。雨はじきにあがって、また暑い日がすだれに差して来た。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
がたがたと動いていたミシンの音が止ると、彼は裁板たちいたの前に坐って、縫目をすためにアイロンを使いはじめた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
叔母は手箪笥てだんすや手文庫の底から見つけた古い証文や新しい書附けのようなものを父親の前に並べて、「何だか、これもちょっと見て下さいな。」と、むっちり肉づいた手にしわした。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
真綿はまゆ曹達ソーダでくたくた煮ていとぐちさぐり、水にさらしてさなぎを取りてたものを、板にしてひろげるのだったが、彼女はうた一つ歌わず青春の甘い夢もなく、脇目わきめもふらず働いているうちに
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)