灯皿ひざら)” の例文
枕元には、薬研台やげんだいの上に、びたかね灯皿ひざらがおいてある。その微かな燈心の揺らぎで見返しても——また合点のゆかないふしがある。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
少し風が強くなってきたのか、或いは、さしも夜更けてきたせいか、ドボリ、ドボリ、という川波の音が灯皿ひざらの細いほのおするかに聞えてくる。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小さい灯皿ひざら。そしてやら網やら雑器などが鼠の巣みたいなワラの中に、骨と皮ばかりなひとりのおきなが虚脱したような眼でぼやッと坐っている。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこの口元に、めらめらと人魂ひとだまのように見えたのは、鉄の灯皿ひざらにつるされた魚蝋ぎょろうの炎でありました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
松明まつあかりを灯皿ひざらにくべ、どこの法師たちやら、悪僧面あくそうづらが三、四人、遊女あそびたちを、ひざへのせたり、抱えたりして、すでに飲み空けた酒壺さけつぼが、幾つも、横に、ころがされてある。
灯皿ひざらから燃えゆらぐ小さな燈火ともしびは、側近く俯向うつむいている彼の蓬々ぼうぼうとした月代さかやきあざらかに照らして余す所がない。彼の髪は毛のこわしょうと見えた。そして油気がなくてやや赤っぽい。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
火の気もなく、ただ一の松あかりを灯皿ひざらにくべて、客の来意を、いたのであった。
三ヵ所に、灯皿ひざらを架け、その乏しい灯の下ごとに、背をまろくして、老いたる妻や、娘や、二人の弟子なども、にかわごてを使ったり、おどしの糸をつづったり、みな、精を出しあっていた。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かかる夜を——とかれは、弟の経盛を見ては、何か、茶化ちゃかしてやりたくなった。去った母が、残していった古机の横に、小さい灯皿ひざらけて、もっともらしく読書にばかりふけっているのだ。
ころころと行燈あんどん灯皿ひざらが輪を描いて土間へ転げ落ちた。
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
灯皿ひざらの罪
夏虫行燈 (新字新仮名) / 吉川英治(著)