涙香るいこう)” の例文
人が話して聞かせても、「そうですか」と言って相手にもならなかった。愛読していた涙香るいこうの「巌窟王がんくつおう」も中途でよしてしまった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
○一月、歌舞伎座にて黒岩涙香るいこうの小説「捨小舟」を脚色して上演。涙香の探偵小説全盛の時代なれども、その成績思わしからず。
明治演劇年表 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
涙香るいこうもある。ヴァン・ダインもある。小説本も、モンテクリストとか、レ・ミゼラブルとか、風と共に去りぬ、というような翻訳本が主であった。
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
最初おいて行ったのは、涙香るいこうの訳にかかるユーゴーの「ああ無情」で、「こういうところから始めたらいいがすぺい。」
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
さては絵本太閤記から黒岩涙香るいこうの翻訳小説まで。雑然と積み上げられた中で、私は、十になり、十一になった。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
涙香るいこうの「幽霊塔」や「白髪鬼」にきつけられ、私自身その焼き直しをしたのも、またこの願望からきている。
探偵小説の「謎」 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
貸本屋を卒業すると、まもなく縁日の露店の古本屋で、涙香るいこうの翻訳物や押川春浪の冒険物などをあさり出し、それが昂じて、すぐ帝国文庫へ手をつけ出した。
コナンドイルや涙香るいこうの探偵小説を想像したり、光線の熾烈しれつな熱帯地方の焦土と緑野を恋い慕ったり、腕白な少年時代のエクセントリックな悪戯あくぎあこがれたりした。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
漱石、蘆花、紅葉、馬琴、為永、大近松、世阿弥、デュマ、ポー、ホルムズ、一千一夜物語、イソップなぞ片端かたはしから読んだ。二葉亭、涙香るいこう、思案外史、鴎外なぞも漁った。
路傍の木乃伊 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
また、医学の書生の中にもすこしも医学の勉強をせず、当時雑書を背負って廻っていた貸本屋の手から浪六なみろくもの、涙香るいこうもの等を借りて朝夕そればかり読んでいるというのもいた。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
これではまるで俺は子供のころに読んだ黒岩涙香るいこうの探偵小説のなかの人物のようだった。悪漢に誘拐ゆうかいされる哀れな犠牲者にそっくりだ。と思ったのは、恐怖のせいだけではない。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
こんどは涙香るいこうの死美人と交換して来て、また、心ときめかせて読みふける。
一歩前進二歩退却 (新字新仮名) / 太宰治(著)
それは朝野ちょうや新聞から、後の万朝報まんちょうほうに立てこもった、黒岩涙香るいこうの翻訳探偵又は伝奇小説の、恐るべき流行に対する、出版者達の対抗運動で、当時硯友社けんゆうしゃの根城のようになっていた
彼は恐らく涙香るいこう小史飜案する所の探偵小説「片手美人」の愛読者であったに相違ない。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
読書の撰定に特色がある。明治初年の、佳人之奇遇、経国美談などを、古本屋から捜して来て、ひとりで、くすくす笑いながら読んでいる。黒岩涙香るいこう、森田思軒しけんなどの飜訳をも、好んで読む。
ろまん灯籠 (新字新仮名) / 太宰治(著)
私が一番最初に読んだ探偵小説は、涙香るいこうの「活地獄いきじごく」だったと思います。
涙香・ポー・それから (新字新仮名) / 夢野久作(著)
面白い探偵小説を書こうとするなら黒岩涙香るいこうを研究すべきではあるまいか、今の人は涙香を忘れかけて居るが、この人の話術は古今独歩で、筋を面白く運ぶこと、人物を浮出させること
涙香に還れ (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
涙香るいこう小史のほんあん小説に「怪美人」というのがあるが、見物して見るとあれではない、もっともっと荒唐こうとうけいで、奇怪至極しごくの筋だった。でもどっか、涙香小史を思わせる所がないでもない。
百面相役者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
読書の撰定に特色がある。明治初年の、佳人之奇遇、経国美談などを、古本屋から捜して来て、ひとりで、くすくす笑いながら読んでいる。黒岩涙香るいこう、森田思軒しけんなどの、飜訳物をも、好んで読む。
愛と美について (新字新仮名) / 太宰治(著)