洒然しゃぜん)” の例文
ああいう敏捷びんしょうな女だから、かえってこっちの裏をかいて、明々あかあか町家ちょうかの灯が往来を照らしている中を、洒然しゃぜんとあるいているかも知れない。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三下みくだはんを請求する方もその覚悟、やる方もその了見りょうけんだから双方共洒然しゃぜんとして形式のためにわずらわされないのであります。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
皮肉といおうか、これも偶然といおうか、火と、炭と、お粥とを持って来たものは、約束のお雪ちゃんではなくて、洒然しゃぜんたる北原賢次でありました。
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
おどろくかと思いのほかに謎の番頭は、にたりと意味ありげな微笑をのこすと、洒然しゃぜんとしてかつぎ去りました。
洒然しゃぜんたるものがあるのである。
闇太郎は洒然しゃぜんとしていったが
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
洒然しゃぜんとして城主は云い切った。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
官兵衛もまた洒然しゃぜんと黙りこくっているので、ついに主人小寺政職まさもとの一族小川三河守までが、肚にすえかねたような面色をもっていい出した。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
諂諛てんゆの者とが得てして行いがちの、狡猾こうかつな、細心な、そのくせ、妙に洒然しゃぜんとして打解けたような物ごしで、膝の傍へ寄って来たが、刀のさやの方から遠廻りをして、腰へ近づいたかと思うと、いきなり
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
父はそう云ったなり洒然しゃぜんとしていた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
だが、往来ゆききの旅人や馬子や荷もちの人足などは、その華奢きゃしゃにして洒然しゃぜんたる道中ぶりに眼をうばわれ
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
竜之助は寝返りも打たないで、洒然しゃぜんとしてこう言ってのけました。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
日吉は、そこへ顔を向けたが、また、一同の上へ眼を移して、洒然しゃぜんといった。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
武者修行の武士は、洒然しゃぜんとしてそれを聞き流し
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「されば至極、洒然しゃぜんとして、長浜においでの由でございます」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
猿は、洒然しゃぜんとして自分でそういうのである。
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、三平も至って洒然しゃぜんとしたものであった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
洒然しゃぜんとして、め立てた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)