水禽みずどり)” の例文
桃園の茶亭ちゃていで、手枕のまま酔いつぶれていた。春の真昼である。鍋鶴なべづるやら水禽みずどりやら近くの泉で啼いている。霏々ひひとして花が飛ぶ。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが、この鮮麗な大河の風色ふうしょく熾烈しれつな日光の中では決して不調和ではない。私は南国の大きい水禽みずどりのように碧流へきりゅうを遡るのだ。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
寝ていた水禽みずどりが低く飛び立ってバサと水面を打った時!——大手の並木みちを蹣跚よばうように駆け抜けてきて
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
水禽みずどりの大鉄傘ちかくのベンチに腰かけてスケッチブックへ何やらかいている佐竹を見てしまったのである。
ダス・ゲマイネ (新字新仮名) / 太宰治(著)
そのとき、にわかに対岸の芒の原がざわめき立った。そうして、一斉に水禽みずどりの群れが列を乱して空高く舞い上ると、間もなく、数千の鋒尖が芒の穂の中で輝き出した。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
おそらく現存する琉球最古の代表的彫刻で第一尚王代のものと思われます。水禽みずどりや魚貝の類を浮彫にしてあって、紋様の技、表現の真、世にもまれなる作と讃えねばなりません。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
かいくだかれた波の穂が、鉛色にひらめいた。水禽みずどりが眼ざめて騒ぎ出した。
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ただ、その朝は水平線の上が刷毛はけいたように明るく、遠くの沖を簪船かんざしぶねが二隻も三隻も通っていくのが見えた。つい近くの波間に遊んでいた数羽の水禽みずどりが翼を並べて、兜岩のほうへ立っていった。
暴風雨に終わった一日 (新字新仮名) / 松本泰(著)
離れて、われに来たのは、けだし、南風が吹けば南岸へ水禽みずどりが寄ってくるのと同じ理である。何を疑う余地があろう
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
風が涼しい、たんは澄み、碧流へきりゅうは渦巻く。紫紺しこん水禽みずどりは、さかのぼる。遡る。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
玉枝は、柳の樹から柳の樹を縫って、美しい水禽みずどりのように、河に添って、すばやく、走りつづけた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて彼は水禽みずどりのように、岩の上にあがって体を拭き着物を着こんだ。——それは武蔵であった。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「——濠の水禽みずどりも、要害の一ツ」
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)