歴々まざまざ)” の例文
あやしむべきかなかつたりしところをそのままに夢むるためしは有れ、所拠よりどころも無く夢みし跡を、歴々まざまざとかく目前に見ると云ふも有る事か。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
俯向うつむいて、じっと目をねむると……歴々まざまざと、坂下に居たそのおんなの姿、——うすもの衣紋えもんの正しい、水の垂れそうな円髷まるまげに、櫛のてらてらとあるのが目前めのまえへ。——
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
昨夜の事が歴々まざまざと思出された。女中がからかみを開けて髭面の菊池君が初めて顔を出した時のさまが、目に浮ぶ。
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ゆるされし罪は消えぬべきも、歴々まざまざ挫傷すりきずのそのおもてに残れるを見れば、やましきに堪へぬ心は、なほすべき事あるををしみてわたくしせるにあらずやと省られて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
積悪の応報覿面てきめんの末をうれひてかざる直道が心のまなこは、無残にもうらみやいばつんざかれて、路上に横死おうしの恥をさらせる父が死顔の、犬にられ、泥にまみれて、古蓆ふるむしろの陰にまくらせるを、怪くも歴々まざまざと見て
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)