わく)” の例文
取卷く人達をかへりながら、平次は床の間に登つて、狆潜ちんくゞりのわくへ足を掛けると、長押なげしに片手を掛けて、床の間の天井の板を押して見ました。
そちらの画室の方には今日も縫取のわくが据ゑられてゐて、麻の布へ、黒と茶色と赤のスコッチの糸で蔓草のやうな模様が縫ひかけてある。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
しかも倒れた寝台のわくが被害者の急所へぶっつかるというようなことは、とてもこしらえごととしか考えられんというのです。
予審調書 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
役に立たなくなった古い手押し車を原に出して置いて、わくの上に、大麦や裸麦のからをかぶせて屋根を作り、番人はその中にはいって寝るんです
ザクザクとギヤマンの破片かけらを踏んで、わくだけになった鏡の口へ寄ってゆくと、いよいよ濃い煙が巻き揚ってくる。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
首をさし込むために洋服掛けの扁平な肩のようなざっとしたわくが作ってあって、その端に糸瓜へちまが張ってある。首の棒を握る人形使いの左手がそれをささえるのである。
文楽座の人形芝居 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
青銅のわくめた眼鏡を外套の隠袋かくしから取りだして、眼へあてがおうとしてみた、がいくら眉をしかめ、頬を捻じ上げ、鼻までお向かせて眼鏡を支えようとしてみても
あいびき (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
「お辭儀なしに頂きます。……ひやの方がよろしおますわい。」と、眞鍮の金具の光る長火鉢の廣いわくに載つてゐた茶呑茶碗の呑み殘つた出がらしを土間へ棄て、二三度水ぶるひをしてから
兵隊の宿 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
わくをはめたる追憶おもひでの、そこはかとなく留まれる
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
取巻く人達を顧みながら、平次は床の間に登って、狆潜ちんくぐりのわくへ足を掛けると、長押なげしに片手を掛けて、床の間の天井の板を押してみました。
青木さんは昨夜帰りに取つてお出でになつた、わくの広い金色の額縁へ、この間戴いた画を入れて下すつたのであつた。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
あの太い鉄のわくで頭から胸部を滅茶滅茶に打たれて、きゃっともすんとも言わずに即死してしまったらしいのです。
予審調書 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
『万葉集』の歌は常に直観的な自然の姿を詠嘆し、そうしてその詠嘆に終始するが、しかし『古今集』の歌はその詠嘆を何らか知識的な遊戯のわくにはめ込まなければ承知しない。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
わくをはめたる追憶おもひでの、そこはかとなく留まれる
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
聲は少しうるんだ甘さで、身扮みなりは綱田屋の愛娘まなむすめといふにしては、清楚に過ぎるくらゐ。窓わくに掛けた手——眞珠色の小さい指で、——ほのかに顫へるのもいぢらしくもありました。
かくなるはこかしづくり、焦茶こげちやの色のわくはめて
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
尤も腰高の窓格子は、わくごと外されて、掛矢との因果關係を物語り顏ですが、此處は道具がなくても樂に外れるやうに出來て居り、掛矢の用途はさう簡單には讀切されさうもありません。
かくなるはこかしづくり、焦茶こげちやの色のわくはめて
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)