松葉杖まつばづえ)” の例文
一本松を背景にして、松葉杖まつばづえによりかかった先生を十二人の子どもたちが、立ったり、しゃがんだりしてとりまいている。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
青年は遠くの空を見やってせきをした。それから、苦しそうに松葉杖まつばづえを突いて、頭を振りながら池のほとりを廻って立去った。
春いくたび (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼は、すこぶる長身であったが、松葉杖まつばづえをついていた。右足が、またのあたりから足首まで、板片をあて、繃帯ほうたいで、ぐるぐると、太くまいてあった。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
墓地の門の前に、ひとりの年とったこじきが、松葉杖まつばづえにすがって、立っていました。ヨハンネスは、持っていたシリング銀貨を、のこらずやりました。
どういうわけだか片足に繃帯ほうたいまいてわざわざ松葉杖まつばづえすがりながら渋面つくって通うような愚かなこともしたという。
篠笹の陰の顔 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
無能な精神の松葉杖まつばづえを捨て去り、自分で考える労を避けて他人の思想中にすような人々の怠惰のためにできてる、その臥床ふしどを捨て去らねばならなかった。
松葉杖まつばづえいて歩く恢復かいふく後の姿を想像したりもしたことであったが、実際は、そのほんの二三時間のあいだだけ、わずかに病人は安静を得ていたのであった。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そして、ある夕方、よわよわしい赤い夕日の道を、ながいかげをひきながら、松葉杖まつばづえにすがって、ちんぎりちんぎり、やってくるひとりの男のすがたが見えました。
丘の銅像 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
この乗り物が町の四つかどに来たとき、そのうしろから松葉杖まつばづえを突いた立派な風采ふうさいの青年がやって来て追い越そうとした。袴をはいているが見たところ左の足が無いらしい。
藤棚の陰から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ああ、このひとも、きっと不幸な人なのだ、不幸な人は、ひとの不幸にも敏感なものなのだから、と思った時、ふと、その奥さんが松葉杖まつばづえをついて危かしく立っているのに気がつきました。
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
或る日、彼女は、昔は其処そこに水車場があったと私の教えた場所のほとりで、しばしば、背中から花籠はなかごを下ろして、松葉杖まつばづえもたれたままあせいている、ちんばの花売りを見かけることを私に話した。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
お寺の戸口のところに、めずらしいながいひげをはやした年よりの兵隊が、松葉杖まつばづえにすがって立っていました。
途中とちゅうでバスがとまり、女先生をおろすとまた走っていった。松葉杖まつばづえによりかかって、みんなをまっていた先生は、そばまでくるのをまたずに、大きな声でいった。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
曾呂利は、松葉杖まつばづえをついて、階段を四、五段のぼっていた。ニーナ嬢が、勢よくというより、少しあわて気味に足早におりて来たため、あっという間に、二人は下にころげおちた。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それは余人よじんではなく、松葉杖まつばづえをついた醤だった。