晩稲おくて)” の例文
三十俵つけ一まちにまとまった田に一草の晩稲おくてを作ってある。一株一握りにならないほど大株に肥えてる。穂の重みで一つらに中伏ちゅうぶしに伏している。
隣の嫁 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
寒くならないうちに晩稲おくて収穫しゅうかくをすましてしまいたい、蕎麦そばも取ってしまいたい、麦もいてしまいたい。百姓はこう思ってみな一生懸命に働いた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
かきの外の畑では、まだ晩蒔おそまきの麦を蒔いて居る。向うの田圃では、ザクリ/\鎌の音をさして晩稲おくてって居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
御行おぎやうの松にふくかぜ音さびて、根岸田甫たんぼ晩稲おくてかりほす頃、あのあたりに森江しづと呼ぶ女あるじの家を、うさんらしき乞食小僧の目にかけつゝ、怪しげなる素振そぶりあるよし
琴の音 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「結局、早稲わせ晩稲おくても駄目で、あンたみたいなのがいいってことでしょ」
泣虫小僧 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
福島県たいら附近の例をいうと、正月十一日の農立ての日の朝、今年苗代なわしろにしようと思う田に行って初鍬はつぐわをいれ、三所に餅と神酒みき洗米あらいよねとを供えて、これを早稲わせ中稲なかて晩稲おくての三通りに見立てて置く。
はつ霜とけさは霜置く門の田に晩稲おくての黄ばみ見つつ子は居り
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
色よく黄ばんだ晩稲おくてに露をおんで、シットリと打伏した光景は、気のせいか殊に清々すがすがしく、胸のすくような眺めである。
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
中稲なかても苅らねばならぬ。其内に晩稲おくても苅らねばならぬ。でも、夏の戦闘たたかいに比べては、何を云っても最早しめたものである。朝霜、夜嵐よあらし、昼は長閑のどかな小春日がつゞく。「小春日や田舎に廻る肴売さかなうり」。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ひたむきに雀羽ばたく向ひ風いまや田圃たんぼ晩稲おくてのみのり
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
午後散歩、田圃たんぼでは皆欣々喜々として晩稲おくてを苅って居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)