春日しゅんじつ)” の例文
性情行径こうけいあいちかし、俳徊はいかい感慨、まことにあたわざるものありしならん。又別に、春日しゅんじつ劉太保りゅうたいほの墓に謁するの七律しちりつあり。まことに思慕の切なるを証すというべし。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
金春こんぱる流の名人、桜間左陣さくらまさじん翁が、見込みのある弟子として骨を折っておしえているというこの麗人が、春日しゅんじつの下に、師翁の後見で「熊野ゆや」を舞うというのであった。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
が、ただひとりこの春日しゅんじつおりの中で、もがいていたのは李逵りきである。李逵は罰として、百日の禁足を食い、それが解けて、檻から外へ出されてみると、春は弥生やよい(三月)の花のかすみだ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こうやって、煦々くくたる春日しゅんじつ背中せなかをあぶって、椽側えんがわに花の影と共に寝ころんでいるのが、天下の至楽しらくである。考えれば外道げどうちる。動くと危ない。出来るならば鼻から呼吸いきもしたくない。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なるほど、当るも八、当らぬも八卦ですな。家は北京ほっけいで重代の老舗しにせ。私は人に恨みをうけている覚えもない。……今日はとんだ春日しゅんじつ閑戯おなぐさみにお目にかかった。謝金一両、これにおきます。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
文化の万朶ばんだ、華のごとき時代といわれ、上下みなおおらかに、日々、春日しゅんじつの下にいたかと思われている——あの万葉の歌の生れた時代でさえ、後人はその歌のみを見て、天平宝字てんぴょうほうじ絢爛けんらんを慕うが
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
にも関わらず、小一条の大臣の館では、盛大な、摂政就任の祝いが、三日にわたって催され、それをしおに、諸家の権門でも、春の淡雪に、また、春日しゅんじつの花に、巷をよそな管絃の音がもれはじめた。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)