星斗せいと)” の例文
時に九月天高く露清く、山むなしく、月あきらかに、仰いで星斗せいとればみな光大ひかりだい、たまたま人の上にあるがごとし、窓間そうかんたけ数十竿かん、相摩戞まかつして声切々せつせつやまず。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
約三百余里にわたる要塞の水陸にはかがり、煙火、幾万幾千燈が燃えかがやいて、一天の星斗せいとがし、ここに兵糧軍需を運送する車馬の響きも絡繹らくえきと絶えなかった。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雨と雪と月光とまた爛々たる星斗せいとの光によりてたださへ淋しき夜景に一層の閑寂かんじゃくを添へしむるは広重の最も得意とする処なり。北斎の山水中に見出さるる人物は皆孜々ししとして労役す。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
時これ十二月かんの土用に際して、萬物ばんぶつ結目むすびめちゞまりすくみ、夜天やてん星斗せいと闌干らんかんたれど
頌歌 (旧字旧仮名) / ポール・クローデル(著)
倒れたきりで仰向けに酔眼すいがんをトロリと見開いて見ると、夜気さわやかにして洗うが如きうちに、星斗せいと闌干らんかんとして天に満つるの有様ですから、道庵先生、ズッと気象が大きくなってしまいました。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
とつぎ来ぬかの天上の星斗せいとよりたかだか君をさんぜむために
舞姫 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
自分は星斗せいとにぎはしき空をば遠く仰ぎながら、心のうちには今日よりして四十幾日、長い/\船路ふなぢの果によこたはるおそろしい島嶼しまの事を思浮おもひうかべた。自分はどうしてむざ/\巴里パリーを去ることが出来たのであらう。
黄昏の地中海 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)