斯様こう)” の例文
旧字:斯樣
かくの如く叙し来ったとて、文海の蜃楼しんろう、もとより虚実を問うべきではないが、保胤は日々斯様こういう人々と遇っているというのである。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
売らぬと云うがわは、人数にんずで関係地主の総数そうすう五十三人中の三十名、坪数で二十万坪の十二万坪を占めて居る。彼等の云い分はざッと斯様こうだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
高窓が表向おもてむきになって付いているばかりで、日も当らない、斯様こう汚らしい処をかりるつもりでなかったが、値段が安くて、困っている当時のものだからつい入ることにしてしまった。
老婆 (新字新仮名) / 小川未明(著)
斯様こうなると、男でも独りでは、方返しがつかないので、此方へお手伝御用をおおせ付かる。
越後獅子 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
斯様こうからだをつかったせいか、其晩から万作が腕は非常に痛み出して、少し熱さえ出てかつを覚ゆると見え、頻りに焼酎が飲みたい飲みたいとくりかえしていう。譫言うわごとのようにいう。
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
私も今迄は女房の心持で働いておりましたけれども、斯様こうなって旦那のないのちは余計者で、かえって御厄介になるばかりでございますし、江戸には大小をす者も親類でもございますから
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
斯様こう思召おぼしめし下されい……さてそこでご貴殿のご器量と、ご名声とにお縋りしてお頼み致したい一儀がござるが、お聞き届け下されようや? ——と藪から棒に申してはご返答にもお困りであろうが
正雪の遺書 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
北越の猛将上杉謙信が「数行過雁月三更」と能登の国を切従えた時吟じたのも、霜は陣営に満ちて秋気清き丁度斯様こういう夜であった。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
今年の自家うちの麦は、大麦も小麦も言語道断の不作だ。仔細は斯様こうである。昨秋の麦蒔むぎまき馬糞ばふん基肥もとごえに使った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
蟠「宅へ帰るのはいが、己の宅でう/\斯様こうなんて事を云っちゃア困るぞ」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
しかし斯様こういう大将で有って見れば、士卒もけかえってふるえて居るわけには行かぬ、力肱ちからひじを張り力足を踏んだことだろう。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
何時の世にも斯様こういう俗物は多いもので、そして又然様そういう俗物の言うところは、俗世界には如何にも正しい情理であると首肯されるものである。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
左馬允も斯様こうなっては是非が無い、ここで負けては仮令たとい過まって負けたにしても軽薄者表裏者になると思ったから、油断なく一生懸命に捻合った。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
慧心寂心の間に斯様かような話の事実が有ったろうが、無かったろうがそんなことは実は何様どうでもよい、ただ斯様こういう談が伝わっているというだけである。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
というような料簡りょうけんが日頃まって居るので無ければ斯様こうは出来ぬところだが、男は引かるるままに中へ入った。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
話すに明らさまには話せぬ事情を抱いていて、笛の事だけを云ったところを、斯様こうすらりと見事にさばかれて、今更に女は窮して終った。口がききたくても口がきけぬのである。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
今は斯様こうよとそれにて御自害あり、近臣一同も死出の御供、城は火をかけて、灰今冷やかなる、其の残った臣下の我等一党、其儘そのままに草に隠れ茂みに伏して、何で此世に生命いのち生きようや。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)