放縦ほうしょう)” の例文
旧字:放縱
そのうち自然に放縦ほうしょうにもなって、幾人いくたりもの恋人を持ちましたが、その中で可憐かれんで可憐でならなく思われた女としてその人が思い出される。
源氏物語:22 玉鬘 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ケイ女史では自然が不平等に作った男女の生活を人間が平等にしようとするのは放縦ほうしょうであると見られる相異がある。
母性偏重を排す (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
きわめて男女間の風紀が放縦ほうしょうで、性生活の自由なこの村の者は、眼のまえにひき起された三角葛藤をながめても、そう驚異とも感じない様子であった。
銀河まつり (新字新仮名) / 吉川英治(著)
原文はきわめて貧弱なくせに、注釈が馬鹿ばかに豊富だった。社会学は最も放縦ほうしょうな思想に珍味を与えていた。当時はすべてが社会学の天幕におおわれていた。
有体ありていに云えば、彼は小林に対して克明に律義りちぎを守る細心の程度を示したくなかった。それとは反対に、少し時間をおくらせても、放縦ほうしょうな彼の鼻柱をくじいてやりたかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼女はそうした生活から、そうした放縦ほうしょうの疲労から老衰を早めた。おりもおり、さしもに誇りを持った横浜の土地から、或夜、ひそかに逃げださなければならなかった。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
その時分私は放縦ほうしょうな浪費ずきなやくざもののように、義姉に思われていた。
蒼白い月 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
当主である清太郎の父の理兵衛は放縦ほうしょう好々爺こうこうやである。じっとしてはいられない性分で、何かと事業に手を出したがる。今までに幾つかの事業に手を出しては人にもだまされ、ことごとく失敗に終っている。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
放縦ほうしょうな人は小さいものをつまずかすことをおそれないのだ。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
強い者の放縦ほうしょうと不仁非道とを許容して置いて、私たち無産階級の弱い者ばかりを、節倹や、過労や、減食や、粗食に由って機械と動物との位地にまで追い詰め、追い詰め
婦人指導者への抗議 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
多年の放縦ほうしょう生活を改めたという、家庭の美事光明びじこうみょうが、一瞬にひっくりかえってしまったのだ。
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
しかし彼らのうちには、その本能がひどく衰微していた。彼らの放縦ほうしょうは主として頭脳的なものだった。文明の逸楽的な気のぬけた大浴槽よくそうの中に浸り込む気持を、彼らは享楽していた。
放縦ほうしょうにしてまとまらぬうちに面白味のあるものでも、精緻せいちきわめたものでも、一気に呵成かせいしたものでも、神秘的なものでも、写実的なものでも、おぼろのなかに影を認めるような糢糊もこたるものでも
作物の批評 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかしどんなことをしても、壁の割れ目からいくらのぞこうとしても、まったく何にも見てとれなかった。彼女らの性質は、無邪気と詩的な放縦ほうしょうとパリー的な皮肉との混和したものだった。
おおかめさんは、うちでは金が出来てしかたがないのだといった。いつでも、せまいほど家のなかがウザウザして、騒々そうぞうしいうちだった。たるづめのお酒を誰かしら飲口のみくちを廻していた。放縦ほうしょうだった。
それとも、将来は教養ある男子が殖えるに従って、自己の純潔を貴ぶため、家庭の平和を欲するため、放縦ほうしょうな性欲を自制して一夫一婦主義を女子と同じく尊重し実践するようになるであろうか。
私の貞操観 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)