あや)” の例文
丸い顔と丸い五分刈ごぶがりの頭をもった彼は、支那人のようにでくでくふとっていた。話しぶりも支那人が慣れない日本語をあやつる時のように、のろかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
尤も惡者の手にあやつられて、以前は隨分惡いと知りながら、不本意なこともさせられたさうですが、私のところへ來てから、ざつと百日のおこなひといふものは
さうかと思ふと又心から人を見くびりせせら笑ひ影の影からあやかしたぶらかすやうな、一度聴いたら逃れる事も忘れる事も出来ない、何かの深い執念と怪しい魔力をひそめた声音こわねである。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
が、江戸ッ子のチャキチャキたる紅葉は泰然と澄ました顔をして、三人して食堂の卓を囲んだ。隣の卓では若い岡倉天心おかくらてんしんが外国人と相対さしむかいに肉刺フォークを動かしつつ巧みな英語をなめらかにあやつッていた。
ママ私どうしても陸軍飛行隊へ志願するわ。アーミー・ジョンソンの記録を破って見せるわ。止めないで頂戴、機械をあやつるのに暴力は不必要です。女性にだって綿密な注意と沈着な態度があります。
母と娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
紅玉エルビーあやつっていたのさ
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
千代子はまた首を突込つっこんだ。彼女のかぶっていたへなへなの麦藁帽子むぎわらぼうしふちが水につかって、船頭にあやつられる船の勢にさからうたびに、可憐な波をちょろちょろ起した。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一脈の不思議な糸にあやつられるように、朝の二俣道を、北へ北へひた向きに駆けるのです。
江戸の火術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)