うごか)” の例文
伊良湖の村に入る一里ほど手前あたりまで行くと、その小さな山脈は漸く尽きて、その隙間から、太平洋の怒濤が地をうごかすやうにきこえて来た。
伊良湖岬 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
他の生命に触れ、揺すり、うごかし、抱き、一つに融けようとしてあえいだ。そしてその結果は自他ともに傷ついたのである。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
喝采の聲はいへうごかせり。幕下りて後も、アヌンチヤタ、アヌンチヤタと呼ぶ聲止まねば、歌女はおもてを幕の外にあらはして、謝することあまたゝびなりき。
猶答へざりけるを、軽く肩のあたりうごかせば、貫一はさるをも知らざるまねはしかねて、始めて目を開きぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
しかし当時抽斎を揺りうごかしてたしめたものは、ひとり地震のみではなかった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
外には烈風はげしきかぜいかさけびて、樹を鳴し、いへうごかし、砂をき、こいしを飛して、曇れる空ならねど吹揚げらるるほこりおほはれて、一天くらく乱れ、日色につしよくに濁りて、こと物可恐ものおそろしき夕暮の気勢けはひなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
輪転機関のいえうごかす音と職工の臭い汗との交った細い間を通って、事務室の人々に軽く挨拶あいさつして、こつこつと長い狭い階梯はしごを登って、さてそのへやに入るのだが、東と南に明いたこの室は
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
須臾しゆゆにして波濤洶々きよう/\の音漸く高く、風力の衝突は頻りに全屋をうごかせり。我とポツジヨとはともに戸外に出でゝ瞻望せんばうしたり。時に夕陽は震怒したる海の暗緑なる水を射て、大波の起る處雪花亂れひるがへれり。
きいろい小さな花、紫色をした龍胆に似た花、白く叢を成して咲いてゐる花、運が好いと、真紅まつかな美しい撫子の一つ二つをその中から捜すことは出来た。波の音は地をうごかすやうに絶えずきこえて来てゐた。
磯清水 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
波の音がいへうごかすばかりに高く高くきこえて来た。
波の音 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)