しゃく)” の例文
などと、頤でしゃくって、ますを指した。そこには女学校に通うているらしい十七、八の桃割の、白い襟首と肥えた白い頬とが側面から見えた。
性に眼覚める頃 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
この度の娘の父は、さまでにもなけれども、小船一つで網を打つが、海月くらげほどにしょぼりと拡げて、泡にも足らぬ小魚をしゃくう。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
入口に立っていた男は、「ふん」と鼻の先で顎をしゃくった。
曲亭馬琴 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
大きな折烏帽子おりえぼしが、妙に小さく見えるほど、頭も顔も大の悪僧の、鼻がひらたく、口が、例のくいしばった可恐おそろしい、への字形でなく、唇を下から上へ、への字を反対にしゃくって
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
与十 でかい事をしたぞ。へい、雪さ豊年のしるしだちゅう、ひでりうおの当りだんべい。大沼小沼が干たせいか、じょんじょろ水に、びちゃびちゃと泳いだ処を、ちょろりとしゃくった。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いらっしゃい。」と……水へ投げて海津かいずしゃくう、溌剌はつらつとした声ならいが、海綿に染む泡波あぶくのごとく、投げた歯に舌のねばり、どろんとした調子を上げた、遣手部屋やりてべやのおさんというのが
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「……うだ、あねえ。う言ふ時だ、しゃくつた月影はうしたい。」
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
赤熊は指揮さしずする体に頤でしゃくって
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)