捲込まきこ)” の例文
世界大戦後、経済界の恐怖に捲込まきこまれて真佐子の崖邸も、手痛い財政上の打撃だげきを受けたという評判は崖下の復一の家まで伝わった。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それにあのくるくると巻かれた口、あの口はたしかにこの世のものではありません。あれは悪魔の口です、恐ろしい因果を捲込まきこんだ口なんですよ
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
父の人格ひとがらがすこし変ったのは、中年過ぎて男の子が出来てから、母の狂愛に捲込まきこまれてからだった。私につぶやいてきかせたころは、実に好きな父だった。
「家なぞはどうでも可い」とよく往時むかし思い思いした正太ではあるが、いざふるい家がこわれかけて来たと成ると、自分から進んでその波の中へ捲込まきこまれて行った。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
翌日番町へ行ったら、岡田一人のために宅中うちじゅう騒々しくにぎわっていた。兄もほかの事と違うという意味か、別ににがい顔もせずに、その渦中かちゅう捲込まきこまれて黙っていた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
二番さんだの八番さんだのという番号附けになってる俗物共の競争圏内に不覚つい捲込まきこまれて了った。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
政宗は政宗だ、誰に遠慮がいろうか。元来政宗は又人に異った一気象が有った者で、茶の湯を学んでから、そこは如何に政宗でも時代の風には捲込まきこまれて、千金もする茶碗を買った。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
男と女で争うなぞはクダラナいことだ、こう思いながら、知らず知らず彼はその中へ捲込まきこまれて行った。何時いつまで経ったら、夫と妻の心の顔が真実ほんとうに合う日が有るだろう。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
捲込まきこまれざるを得ないのは、半襟二掛ばかりの効能ききめじゃ三日と持たない。すぐ消えて又元の木阿弥になる。二掛の半襟は惜しくはないが、もう斯うなると、いきおいに乗せられた吾が承知せぬ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
三吉が過去の悲惨であったも、かつてこういう可畏おそろしい波の中へ捲込まきこまれて行ったからで——その為に彼は若い志望をなげうとうとしたり、落胆の極に沈んだりして、多くの暗い年月を送ったもので有った。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)