挽臼ひきうす)” の例文
現に離れ島や九州の外側海岸などには、今も豆腐は知っていても、家にはまだ挽臼ひきうすを備えない例が稀なりとせぬ。『炭俵すみだわら』の連句に
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
けれど小林は挽臼ひきうすのように動かなかった。母は諦めたように独りで麻糸つなぎの内職をしていた。そのうち母さえもそれをめてしまった。
もし粟粒あわつぶにして挽臼ひきうすの下にあって考うることをするならば、それは疑いもなくジャン・ヴァルジャンが考えていたと同じことを考えるであろう。
『まあ、なんて気味のわるいひとなんでせう。とつぜん顔なんか出してさ、挽臼ひきうすにいれて粉にしてしまひますよ』
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
表の戸はまだ閉まっていたが、豆腐屋儀助の夫婦は、もう寝床とこを離れていた。豆の挽臼ひきうすのそばへ、儀助は燈火あかりをかかげて、女房は土間の中の井戸水を寒々とんでいた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
時しもありけれ、魯智深が、おおいなる挽臼ひきうすのごとき、五分刈頭を、天井にぐるりと廻して
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
思ひ出は糓倉こくぐら挽臼ひきうすの上に
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
いわく石の挽臼ひきうす、いわく入口右手の地唐臼じからうすである。この新旧の雑居がおかしいと思うと、村にはさらに第五種の賃舂ちんつき臼屋があるという。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
おれたちは袋の中のものに責任を負えるかい。たくさんの穀類がはいってるのを、一々より分けておられるものじゃねえ。ただ挽臼ひきうすの中につぎ込むばかりだ。
もち団子だんごも同様に、簡便なる石の挽臼ひきうすの普及に助けられたので、古風な規則正しい田舎いなかの生活が、外部の影響に勝てなかった弱味もここにあった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ふたりの悪漢は膝に押さえつけられて、ちょうど花崗石かこうせき挽臼ひきうすの下になったようにうめき声を出した。
きねが今のように大きくなるまでは、餅も粉にしてから搗くのが普通であり、粉も挽臼ひきうすの普及するまでは、やはり水に浸してから臼に入れて搗いていた。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
石の挽臼ひきうすひろく行われるまでは、麦類はかえって生粉なまこには向かず、主としては屑米くずまい・砕け米等の飯にはならぬもの、次には蕎麦そばなどが盛んに粉にはたかれていた。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)