手帛ハンカチ)” の例文
ピシャリと、柿丘の頬に、まぬるいものが当ると、耳のうしろをかすめて、手帛ハンカチらしい一つかみほどのものがパッとひるがえって落ちた。
振動魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「いくら何でも僕に禁酒法案の説明をさせるなんて余りぢやないか。」憲法学者は二日酔ひの顔を手帛ハンカチのやうに両掌りやうて掌面てのひらで揉みくしやにした。
清三もその後に従った、そして康子のために台石のほこり手帛ハンカチで払ってやった、康子は微笑ほほえみながら清三の手を見ていたが、素直にその上へ腰を休めた。
須磨寺附近 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
女は先刻から耐えていて持ち切れなくて、眼に一杯なみだをうかべた。そして直ぐうつ向いて手帛ハンカチをあてた。
三階の家 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
ハンドルに手帛ハンカチを被せてグッとひねると、ガチャリとはずれて扉は内部へ開いた。さてはと思って、充分警戒をしながら、すこしずつ滑りこんだ。
ゴールデン・バット事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
鼻に当てられた手帛ハンカチの厭な匂いを嗅いでいる内に、いつか頭がぼうっとなって、まるで海の底へでもひきこまれるように、気が遠くなってしまった。
骸骨島の大冒険 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
エルマン氏は、禿げ上つた前額ぜんがくみ出る汗を無雑作に手帛ハンカチで拭きとりながら、ぶつきらぼうに答へた。
そのひとは、いつも手を合せて、永い間、懐中から手帛ハンカチにつつんだ写真をとり出して、それを膝の上にのせては低い声で何か祈りながら、板敷の上に坐っていた。
性に眼覚める頃 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
麻雀ガールのとよちゃんが、鼻の頭に噴きだした玉のような汗を、クシャクシャになった手帛ハンカチで拭き拭き、そう云った。
麻雀殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
五郎はむせびあげながら手紙を父に渡した。そこへ解剖の済んだ死体が運ばれてきた——五郎はすぐに走り寄り、手帛ハンカチを水に濡らして、扮装の白粉おしろいを静かにぬぐい落した。
劇団「笑う妖魔」 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
土居は八雲千鳥に替って、ポケットから手帛ハンカチを出して自分の額の汗を拭いた。帆村は土居を奥の書斎へ導いた。
地獄の使者 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼の持物の多くが——麦藁むぎわら帽子だの草履だの手帳だのあるいはパンツだの手帛ハンカチだのが——みんな彼女たちの心をこめた贈り物だということは、誰にも否定することのできぬ事実であった。
留さんとその女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
軍医はポケットから手帛ハンカチを探しだして汗を拭いた。このとき南に面した硝子窓ガラスまどが、カタコトと鳴って、やがてパラパラと高い音をたてて大粒の雨がうち当った。
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
懐中電灯で探してみると、それはダンディ好みの點火器ライターだった。彼は手帛ハンカチをだして、それを拾いあげると、ポケットに収いこんだ。これも事件の謎をとく何かの材料かもしれない。
ネオン横丁殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「証拠ですよ」と云いながら私は大事にしまってあった手帛ハンカチの包みをとり出しました。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)