とぼ)” の例文
さあいよいよだ、とぎょっとしたけれど、何時頃にと、とぼけて尋ねますと、ちょうど刻限が合ってるんで。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あんな大声で呼んだのにそらとぼけた真似をするな、この礼儀知らずの素町人め」「大層御立腹ですな」
入婿十万両 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
とぼけなすってはいけませんよ、何だとえ親の行方が知れないから、お前さんは自分の娘にしたとお云いだが、それが立派なお百姓さんの御挨拶でございますかえ
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そない図星ずぼし刺されたらもうとぼけること出来でけしませんけど、そいでも真っ青になりながら黙ってますと、「きっとそうに違いないやろ? なんでそれいうてくれへん」
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「いよう、先生!」わざととぼけた顔つきをしてみせながら、「よくこの電車でお目にかかるじゃアございませんか——さては、何かいい巣でもこッちの方にできました、な?」
猫八 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
津田はそらとぼける事の得意なこの相手の前に、真面目まじめな返事を与える子供らしさを超越して見せなければならなかった。同時に何とかして、ゴツンとくらわしてやりたいような気もした。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
空っとぼけているのかどうか、たべる方に余念もないと云う様子で、即席のサンドウィッチをこしらえるのにかまけている彼女は、縦に二つに切ってある酢漬すづけ胡瓜きゅうりを細かにきざんでは
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
とぼけなすっちゃアいけません、ありゃ私の娘だよ、わたしア三田の三角のあだやと云う引手茶屋のおかくという婆アだが、あれは私の大事な金箱娘かねばこむすめ、此の二月大火事の時深川を焼出され
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そらとぼけちゃいけません。あったらあったと、判然はっきりおっしゃいな、男らしく」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
角「おめえさんとぼけたって無益だめだよ、おかめ此処へ来て一寸ちょいとお目にかゝれ」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
小林はとぼけた顔をしてすまし返った。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)