心当こころあたり)” の例文
旧字:心當
「そうか。そう云われれば、心当こころあたりがある。いつも漬物を切らすので、あの日には茄子と胡瓜を沢山に漬けて置けと云ったのだ。」
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
どこから救いの日光がさし込んだか、三人は養子の心当こころあたりで指さす辺を熱心に見て廻ったが、木材と木材はきっしり喰い合っていて、一寸の隙間さえ見出せなかった。
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
駿河台のお邸にては、りても御前様の御帰館無きより、心当こころあたりを問合せ、御親類中へ使者を向くるに、いずくにも見えさせたまわず、皆目御立寄おたちよりこれなきよし。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「何者か知らんて、一向心当こころあたりと謂うては無い。名は言はんて?」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それも、君だけの材能があって見れば、多少の心当こころあたりがないでもない。若しうまく行ったら、君は自らち得た報酬で宿屋の勘定をするが好い。
二人の友 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
しかもそのくせ、卑怯ひきょうにも片陰かたかげを拾い拾い小さなやしろ境内けいだいだの、心当こころあたりの、やしきの垣根をのぞいたが、前年の生垣も煉瓦にかわったのが多い。——清水谷しみずだにの奥まで掃除が届く。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
少々しょうしょう無理なねがいですがね、身内に病人があって、とても医者の薬ではなおらんにきまったですから、この医王山でなくってほかにない、私が心当こころあたりの薬草を採りに来たんだが、何、ねえさんは見懸みかけたところ
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そして貴方あなた、おのぞみの草をお採り遊ばすお心当こころあたりはどの辺でござんすえ。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)