微笑ほほゑみ)” の例文
只目の前にゐる美しい女の微笑ほほゑみが折々変つて、その唇が己に新なる刺戟を与へてくれさへしたら、己はそれに満足してゐただらう。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
門を出て右へ曲ると、智恵子はちよつと学校を振返つて見て、『気障きざひとだ。』と心に言つた。故もない微笑ほほゑみがチラリと口元に漂ふ。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
栄蔵をみとめると、にこつと笑つたが、忙しいときに誰でもするやうに、すぐその微笑ほほゑみをひつこめて、また一心に手元の水面をみつめてゐる。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
五十歳くらゐな男で、赤い髪を長くのばし、ひげのないやせた顔に、なんだかさびしさうな微笑ほほゑみをうかべてゐます。エミリアンはへんな気がしました。
エミリアンの旅 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
お富は長女の手をひきながら、その度に晴れやかな微笑ほほゑみを見せた。勿論二十年の歳月は、彼女にもおいもたらしてゐた。しかし目の中に冴えた光は昔と余り変らなかつた。
お富の貞操 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そんな事を立てつづけに私はしやべりながら、ひよいと女の方へ顏を向けると、女の顏には例の微笑ほほゑみのやうなものがちらりと浮かびかけたが、そのときはそのデツサンきりで、すぐ消えて行つた。
生者と死者 (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
蝶の飛ぶ春なるかなと見てをるを小鳥ぞといふに微笑ほほゑみ尽きず
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
生まれ来て知れる幸ひ生くからにおのずとるる微笑ほほゑみ愛し
遺愛集:02 遺愛集 (新字新仮名) / 島秋人(著)
嗚呼ああ物古ものふりし鳶色とびいろの「」の微笑ほほゑみおほきやかに
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
かの不思議なる微笑ほほゑみに銀の如き顫音せんおんを加へて
ヒウザン会とパンの会 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
まじれる君が微笑ほほゑみはわが身のきず
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
(わたしは微笑ほほゑみを欲す……)
展望 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
お定は暫時しばし恍乎うつとりとして、自分の頬を天鵞絨の襟に擦つて見てゐたが、幽かな微笑ほほゑみを口元に漂はせた儘で、何時しか安らかな眠に入つて了つた。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
新太郎ちやんも、栄蔵と同じ感を抱かされたらしく、情ないやうな微笑ほほゑみをちよつとうかべながら、持つて来た紙鳶を、蔵の入口にもたせかけた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
物静かなる死の如く、微笑ほほゑみ作るかはたれに
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
微笑ほほゑみあかるくして
新頌 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
すると今まで元気だつた新太郎ちやんの顔から、すつと元気がひいていつて、情ないやうな微笑ほほゑみを浮かべた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
さればといつて、別に話すでもなく、細めた洋燈の光に、互に顔を見てはおとなしく微笑ほほゑみを交換してゐた。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
さればぞ歌へ微笑ほほゑみはえの光に。
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
微笑ほほゑみのやさしさは
新頌 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
それとなき微笑ほほゑみが口元に湧いて、梅野の活溌なのが喰ひつきたい程可愛く思はれる。梅野は美しい、白い。背は少し低いが……アノ真白ましろな肥つた脛、と思ふと、渠の口元は益々緩んだ。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
さればぞ歌へ微笑ほほゑみはえの光に。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
微笑ほほゑみはそよ風
新頌 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)