引包ひッつつ)” の例文
ストンと溝へ落ちたような心持ちで、電車を下りると、大粒ではないが、引包ひッつつむように細かく降懸ふりかかる雨を、中折なかおれはじく精もない。
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何と生魚なまうおを、いきなり古新聞に引包ひッつつんだのを、爺様は汚れた風呂敷にいて、茣蓙ござの上へ、首に掛けて、てくりてくりとく。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とまっしぐらに立向った、火よりも赤き気競きおいの血相、猛然として躍り込むと、戸外おもては風で吹き散ったれ、壁の残った内はこもって、さっ黒煙くろけむり引包ひッつつむ。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、電燈でんきを消すと、たちまち鼠色の濃い雲が、ばっと落ちて、ひさしから欄干てすりを掛けて、引包ひッつつんだようになった。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、あるいは三方から引包ひッつつんで、おびき出す一方口の土間は、さながら穽穴おとしあなとも思ったけれども、ままよ、あの二人にならどうともされろ!で、浅茅生へドンと下りた、勿論跣足はだしで。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
透間にし入る日の光は、風に動かぬ粉にも似て、人々の袖に灰を置くよう、身動みじろぎにも払われず、物蔭にも消えず、こまやかに濃く引包ひッつつまれたかのおもいがして、手足も顔も同じ色の、蝋にも石にもかたまるか
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わめくや否や、狼のように人立じんりつして、引包ひッつつんでとびかかった。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)