引出物ひきでもの)” の例文
十月二十九日朝御暇乞おんいとまごいに参り、御振舞おんふるまいに預り、御手おんてずから御茶を下され、引出物ひきでものとして九曜のもん赤裏の小袖二襲ふたかさねたまわり候。
興津弥五右衛門の遺書 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
主人のすべき勤めは忘れず、左大臣が礼を述べて帰り支度をしかけると、かねて今夜の引出物ひきでものに用意しておいたそうのことを持って来させたり
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
あたしを棄ててその刀を引出物ひきでものに弥生さまのところへ納まろうというんでございましょう? そんなこと、こちらは先刻せんこく御承知でございますよ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
すなわち勝入父子が、去就きょしゅう一決と同時に、木曾川第一の要地を占領して、秀吉へ加担かたん引出物ひきでものとした快報であった。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
忠通は当座の引出物ひきでものとして、うるわしい色紙短冊と、紅葉もみじがさねの薄葉うすようとを手ずから与えた。そうして、この後ともに敷島の道に出精しゅっせいせよと言い聞かせた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その時の引出物ひきでものに、漁猟・廻船・出納すいとう・売買の支配を附与せられ、それにより、市町あきなどころに市神としてまつることになったというのは、もう久しい以前から普及していた俗説であったかと思われる。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
千代子の父には重ね重ねの莫大な引出物ひきでもの、その外の親類縁者には、あるものには経済上の圧迫、あるものにはその反対に惜しげもない贈物、それから官辺かんぺんへのつけ届けなども、角田老人の手によって
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「いよいよ近藤を片づけたら、次には君に引出物ひきでものがある」
引出物ひきでものらせむと、またふた
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
師直は当座の引出物ひきでものとして、かれに色ある小袖ひと重ねと練絹ひと巻とを取らせた。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
おだどのよりの引出物ひきでものには、一文字宗吉のおん太刀をはじめおびたゞしき金子きんす銀子ぎんす馬代うまだいを御けらいしゅうへまでくだしおかれ、あさいどのよりの御かえしには、おいえ重代じゅうだいの備前かねみつ
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
さきには引出物ひきでものとして京染めの素襖すおうと小袖をくれた。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)