座右ざゆう)” の例文
ようやく、諸士の願いを退けて、すこし座右ざゆうに暇を見出したと思っていると、こんどは宗治の兄の月清入道げっしょうにゅうどうが来て、彼に説いた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
近代の人ではアンリー・ルッソーの画を座右ざゆうにしてます。元来がんらい氏は、他に対して非常な寛容かんようを持って居る方です。
関白の座敷としては、割合に倹素で、忠通の座右ざゆうには料紙硯と少しばかりの調度が置かれてあるばかりであった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ヘルンの机の座右ざゆうには、常に日本の煙草盆と煙管がそなえてあった。ヘルンは日本の煙管を好んだので、夫人が外出するごとに変った物を見付けて帰った。
又は座右ざゆうに欠くべからざる必要品として価の廉不廉にかかわらず重宝ちょうほうがられるのか何方どちらかでなければならない。
余と万年筆 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
桂は一度西国立志編の美味うまみを知って以後は、何度この書を読んだかしれない、ほとんど暗誦するほど熟読したらしい、そして今日といえどもつねにこれを座右ざゆうに置いている。
非凡なる凡人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
二代目の天鼓もまたその声霊妙れいみょうにして迦陵頻迦かりょうびんがあざむきければ日夕籠を座右ざゆうに置きて鍾愛しょうあいすること大方ならず、常に門弟をしてこの鳥の啼く音に耳をかたむけしめ、しかる後にさとしていわ
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その約定につき公事くじ訴訟を起こすことまれなれども、日本人は家内の一室ごとに締りを設けて座右ざゆうの手箱に至るまでも錠を卸し、普請請負いの約定書等には一字一句を争うて紙に記せども
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「まあ、だいたいこういう心得こころえでご奉公をしてください。生はかたく死はやすし。むやみに命を捨てては困る。ただ精神を忘れなければよろしい。それからこの紙を持って行って座右ざゆうめいになさい」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それだけが惜しまれてもいたし、秀吉もまた、破れ易い名器を座右ざゆうに置いているように、いつも一方ならぬ気遣きづかいをしているようであった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
座右ざゆうにあった「圧切へしきり」の名刀を手ずから取って官兵衛に与えた。この刀の由来を後に「黒田重宝故実」に依ってみると、こう記してある。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
居宅に望む心なしという言葉だの、心常に兵法の道を離れずという言葉だの、彼が座右ざゆうの自戒とした「独行道」の箇条を見ても、彼の生活がどこに帰着をおいていたかうかがい知るに充分である。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の座右ざゆうには、目につく者がひとり召し呼ばれていた。さかい千宗易せんのそうえきである。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)