底事なにごと)” の例文
ぎ澄したるつるぎよりも寒き光の、いつもながらうぶ毛の末をも照すよと思ううちに——底事なにごとぞ!音なくてと曇るは霧か、鏡のおもては巨人の息をまともに浴びたる如く光を失う。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ひろやうでもせまいのは滊船きせん航路かうろで、千島艦ちしまかんとラーヴエンナがう事件じけん實例じつれいまでもなく、すこしく舵機かぢ取方とりかたあやまつても、屡々しば/\驚怖きやうふすべき衝突しようとつかもすのに、底事なにごとぞ、あやしふね海蛇丸かいだまる
除夕じょせきの作に「家家家裏合家歓。児女団欒笑語親。底事寄居蕭寺客。梅花併影只三人。」〔家家家裏合家ノ歓/児女団欒笑語ノ親/底事なにごとゾ寄居ス蕭寺ノ客/梅花影ヲあわセテ只三人ノミ〕
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
こは逍遙子が言に、今の批評家狂言作者に向ひて「ドラマ」を求むるは底事なにごとぞとありしにりたるなるべし。されど逍遙子が所謂「ドラマ」には、單に戲曲といはむよりは廣き義あり。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
此年文化四年に蘭軒は長崎にあつて底事なにごとしたか、わたくしはこれをつまびらかにすることが出来ない。葌斎かんさい詩集を検するに、その交つた人々には徳見訒堂じんだうがあり、劉夢沢りうむたくがあり、長川某がある。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「去年詩画騒動」とは底事なにごとか未だ考へない。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)