ちか)” の例文
人の一生を水晶の如く透明なるものと思惟するは非なり、行ひに於いては或は完全にちかきものあらむ、心に於ては誰か欠然たらざる者あらむ。
心機妙変を論ず (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
此の確信ある絶望は、一種の愉悦でさえある。それは、意識せる・勇気ある・楽しさを以て、以後の生を支えて行くに足るもの——信念にちかいものだ。快楽も要らぬ。インスピレーションも要らぬ。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
絵そのものよりも寧ろ描く意気に於て二人の間にちかいものがある。尤も、それは僕が石井氏の絵を好むと同時にデュピュイの絵を愛するという、僕の主観裡に於て二人が握手しているのかも知れない。
銷夏漫筆 (新字新仮名) / 辰野隆(著)
ゆえにその効たるや、智を増すことは史乗しじょうかず、人をいましむるは格言に如かず、富を致すは工商に如かず、功名を得るは卒業の券に如かざるなり。ただ世に文章ありて人すなわちもって具足するにちかし。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
これもの人主じんしゆ逆鱗げきりんるるければすなは(一一五)ちか
世間もし涙を神聖に守るのわざけたる人を挙げて主宰とすることあらば、いたく悲しきことは跡を絶つにちかからんか。
山庵雑記 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)