帆前船ほまへせん)” の例文
其のをり私達は船長がこの小さな帆前船ほまへせんあやつつて遠く南洋まで航海するのだといふ話を聞き、全くロビンソンの冒険談を読むやうな感に打たれ
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
だいは勿論一銭である。しかし彼はこの時ほど、マツチの美しさを感じたことはない。殊に三角の波の上に帆前船ほまへせんを浮べた商標は額縁へ入れてもい位である。
あばばばば (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
なみ江丸えまるとは、れい反古はご新聞しんぶんしるされてつたで、はじめ、大佐たいさ一行いつかうこのしませて一大いちだい帆前船ほまへせん、あゝ、あのふねも、いまなにかの理由りいうで、この海岸かいがんにあらずなつたかと
『ああ、海が恋しくなつた、青い水が見たくなつた、白い帆前船ほまへせんをながめたい。』
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
此處を港にいかりを下ろす船は數こそ少いが形は大きく大概は西洋形の帆前船ほまへせんで、出積荷は此濱で出來る食鹽、其外土地の者で朝鮮貿易に從事する者の持船も少なからず、内海を往來ゆきゝする和船もあり。
少年の悲哀 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
全く石川島いしかはじまの工場をうしろにして幾艘となく帆柱を連ねて碇泊するさま/″\な日本風の荷船や西洋形の帆前船ほまへせんを見ればおのづと特種の詩情がもよほされる。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
僕は隅田川の川口に立ち、帆前船ほまへせん達磨船だるませんの集まつたのを見ながら今更のやうに今日の日本に何の表現も受けてゐない「生活の詩」を感じずにはゐられなかつた。
河中かはなかに碇泊して居る帆前船ほまへせんを見物して、こわい顔した船長から椰子やしの実を沢山貰つて帰つて来た事がある。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
誰かそつと鸚鵡あうむを絞め殺してゐる。誰か小さいレストランの裏の煙突の下に眠つてゐる。誰か帆前船ほまへせんの帆をあげてゐる。誰か柔い白パンに木炭画の線を拭つてゐる。
春の夜は (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)