たっと)” の例文
仏教をたっとぶ市民達はその仏教の教主たるところの噠𡃤喇嘛その人を生仏いきぼとけとして尊信し、その喇嘛のおわす宮殿を神聖不可侵おかすべからざる場所とした。
喇嘛の行衛 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
国王とモンテスパン夫人との寝台の下に腹匐はらばいになったローザン氏の姿勢は、ちょうど批評界が歴史と真実とをたっとんで取ってる姿勢と同じだった。
神において真の自己を見出すなどいう語は或は自己に重きを置くように思われるかも知らぬが、これかえって真に己をすてて神をたっとぶ所以である。
善の研究 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
あながち根拠なしとも言えないようです——彼等は非常に祖先をたっとびます、墓を愛し守ること無類です。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
白き上衣の、わきの下早や黄ばみたるを着たる人も、新しき浴衣ゆかた着たる人よりはたっとばるるを見ぬ。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
爵位がたっとく、俸禄が厚いに係わらず、国に報ぜんことを思わないで、貪饕たんこうを務めて、鈔金しょうきん三百錠を受け、法をげて裁判をし、銀五百両を取って、理を非に枉げて良民を害したから
富貴発跡司志 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それ律は大法を設け、礼は人情にしたがう。民をととのうるに刑を以てするは礼を以てするにかず。それ天下有司に諭し、務めて礼教をたっとび、疑獄をゆるし、朕が万方ばんぽうともにするをよろこぶの意にかなわしめよと。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)