岐路わかれみち)” の例文
「海ならあります。ここいらは叔母さん、海岸の一筋路ですから、岐路わかれみちといっては背後うしろの山へくよりほかにはないんですが、」
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
天下取りの大望棄てられて、一介の色餓鬼となられるか、人間真贋しんがん岐路わかれみち、ご熟慮あられい、ご熟慮なさりませ!
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼は、あだかも冷くおごそかな運命の前に首をれる人のようにして、こうした一生の岐路わかれみちに立たせられるよりはむしろ与えられた生命いのちを返したいとまで嘆いた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
然し行く道は平家の住宅、別莊らしい門構、茅葺の農家、畠と松林のあひだを勝手次第に曲るたび/\又も同じやうな岐路わかれみちはいるので忽ち方角もわからなくなる。
羊羹 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
地の理はく聞いてまいりましたから、岐路わかれみちに迷いもせず、足元を見ては歩一歩ほいっぽ山深く入ってまいりますると、大樹だいじゅの蔭からのっそりと大熊が現われ出でました。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
二人はその時畑路の岐路わかれみちの処へ来ていた。その路を右に往くと諏訪神社のある草原で非常に近かった。
放生津物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
おんなの一しょう大事だいじはいうまでもなく結婚けっこんでございまして、それが幸不幸こうふこう運不運うんふうんおおきな岐路わかれみちとなるのでございますが、わたくしとてもそのかたからはずれるわけにはまいりませんでした。
お絹が今やちょうど生涯の岐路わかれみちに立っているような事情も、ほぼ呑みこめてきた。
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
しかし行く道は平家の住宅、別荘らしい門構もんがまえ、茅葺の農家、畠と松林のあいだを勝手次第に曲るたびたびまたも同じような岐路わかれみちへ入るのでたちまち方角もわからなくなる。
羊羹 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
気がつくとその頃の俳諧の修行者しゅぎょうじゃは、年紀としにかかわらず頭を丸めていたのです——道理こそ、可心が、大木の松の幽寂に二本、すっくり立った処で、岐路わかれみちの左右に迷って、人少ひとずくなな一軒屋で
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)