山嶺さんれい)” の例文
山嶺さんれいゆきなほふかけれども、白妙しろたへくれなゐや、うつくしきかなたまはる松籟しようらいときとしてなみぎんずるのみ、いておどろかすかねもなし。
月令十二態 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
前には脈々たる頸城くびき山嶺さんれいが迫って、その高い山を越えれば他国である。何の山にも雪が来て頭が真白になっていた。雲が降りて山々の腰から上は墨を塗ったようだ。
越後の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
馬蹄ばてい倒され踏みにじられながらも、雲霧の中に浄化の荒い火が燃えている山嶺さんれいまで、血まみれになってたどりゆく。神と相面して立つ。ヤコブが天使と戦うように、神と戦う。
世にもかゝる自然の風景もあることかとそゞろに心を動かしたのであるが、渓橋を渡り、山嶺さんれいをめぐり、進めば進むほど、行けば行くだけ、自然の大景は丁度ちやうど尽きざる絵巻物を広げるが如く
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
そのおきては自然の力の掟と同じである。人間の生活には、静かな湖水のごときもあり、雲の流るる明るい大空のごときもあり、豊饒ほうじょうな平野のごときもあり、切り立った山嶺さんれいのごときもある。