尻端折しりはしおり)” の例文
鳥打帽とりうちぼう双子縞ふたこじま尻端折しりはしおり、下には長い毛糸の靴足袋くつたびに編上げ靴を穿いた自転車屋の手代てだいとでもいいそうな男が、一円紙幣さつ二枚を車掌に渡した。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
芝の大鐘おおがねは八ツ時でちらり/\と雪の花が顔に当る処へ、向うから白張しらはりの小田原提灯を点けて、ドッシリした黒羅紗くろらしゃの羽織に黒縮緬の宗十郎頭巾そうじゅうろうずきん紺甲斐絹こんがいきのパッチ尻端折しりはしおり
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
八人の警吏が各々めいめい弓張ゆみはりを照らしつつ中背ちゅうぜいの浴衣掛けの尻端折しりはしおりの男と、浴衣に引掛ひっかけ帯の女の前後左右を囲んで行く跡から四、五十人の自警団が各々提灯ちょうちんを持ってゾロゾロいて行った。
最後の大杉 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
身には法衣ころもに似て法衣でないようなものを着ていた。それに、尻端折しりはしおり脚絆きゃはん草鞋穿わらじばきという異様な姿をしていた。頭は坊主にっていた。その時の心の経験の記憶がた実際に岸本の身にかえって来た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
よほど遠くから出て来るものと見え、いつでもわらじ脚半掛きゃはんが尻端折しりはしおりという出立いでたちで、帰りの夜道の用心と思われる弓張提灯ゆみはりちょうちんを腰低く前で結んだ真田さなだの三尺帯のしりッぺたに差していた。
伝通院 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
つづいて尻端折しりはしおり股引ももひきにゴム靴をはいた請負師うけおいしらしい男の通ったあとしばらくしてから、蝙蝠傘こうもりがさと小包を提げた貧しな女房が日和下駄ひよりげたで色気もなく砂を蹴立けたてて大股おおまたに歩いて行った。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)